秘密 /逢坂壮五
「ここら辺のハズだけど、どこかな、場所・・・・・・。」
「あ、あったあった、きっとあの人集り!!」
「キャー!!カッコイイー!!」
「え、ホントヤバいんだけど・・・・・・。」
「写真撮らなきゃ!!」
賑わう都会の駅の一角。
一枚のポスターを見て集まる女の子達。
みんな違う、でもみんな気持ちは同じ。
僕達IDOLiSH7が、全国の7主要都市を巡るツアーが終わる。
各地ではそれぞれの土地をイメージしたビジュアルボードが駅に張り出され、様々なお店でコラボや宣伝など大々的に行ってきた。
その最終が東京。
様々な土地の文化に触れ、たくさんの経験をした。
どんどん新しく育っていく自分と、変わらない自分。
旅を終えて帰った場所には、変わらない人。
「すごいなぁ、あの人集り。」
「嬉しいな、わざわざ遠方から来てくれてるファンの子もいるんだって。」
「みんなー、IDOLiSH7の逢坂壮五がここにいますよー。」
「そんな意地悪しないで。もし僕達の関係が週刊誌にでも載ったりしたら、蒼ちゃんだって普通に生活出来なくなるんだよ?」
「フフッ、冗談だよ。壮くんを独り占めできなくなるのは嫌だもの。」
「この場を普通に通り過ぎても気付かれていないってことは、どうやら今日の変装も大成功してるみたいだね。」
「決め手はその瓶底メガネだね!」
ヒソヒソ声で会話は進む。
ファンの子達が賑わいをみせる、ビジュアルボードの側をを通り過ぎる。
誰も気がついていない。
今、ここを逢坂壮五が通っているということに。
みんなが持っている小物やグッズの色で、いわゆる推しがわかる。
あの子はナギくんのファン。
こっちの子は環くんのファン。
この子は・・・・・・僕。
「壮くん、あの子、紫持ってるよ!壮くんのファンだよ!」
「素敵な笑顔だな・・・・・・。とても嬉しい!あの子の、あの笑顔の力に、僕も少しはなれているみたいでホッとしたよ。」
「少しどころじゃないよ、いっぱいだよ!壮くん達の歌を聴けば、沈んだ心も踊りだしちゃう。壮くん達の笑顔を見れば、どんなに泣きたくてもつられて笑顔になれるんだよ!!」
「蒼ちゃん・・・・・・。ありがとう。今の力いっぱいのスピーチ、帰ったらみんなにも教えてあげよう。」
「ちなみに、今のは壮くんのファンとしてのバージョンだからね。」
「他にもまだあるの?」
「壮くんが心を込めて歌えるように、壮くんがいつでも笑顔でいられるように、私は壮くんを応援してるよ。いつだって胸の中で叫んでる。大好きって。壮くんの事、誰よりも愛してるから。」
「ちょっと、照れるな。」
「今のが、壮くんの彼女としてのバージョン!」
「ありがとう。今のは僕の中で大切にとっておくよ。」
そっと手を伸ばし、つなぐ。
ただそれだけの事、なのだけど。
蒼ちゃんの嬉しそうな表情が、僕の心を温かくする。
この子が大好きだと、世界中に叫べなくてもいい。
ヒソヒソ声の会話でも。
抱きしめたいと思った瞬間に、抱きしめられなくてもいい。
つないだ手の先から。
愛はちゃんと伝わっている。
僕らの間に響いている。
秘密という見えない壁に守られて、僕らは今日も愛し合う。
「改めて、ツアーお疲れ様。お帰りなさい、壮くん!」
「ありがとう、君のおかげで僕は輝ける。ただいま、蒼ちゃん。」
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