紡ぐ糸と解ける糸








「今日はー!IDOLiSH7です!!」

「さっそくですが、今回の体験は?環。」

「帽子職人、体験。」

「ワタシ達の素晴らしいセンスが詰まったハット、皆さんにお見せしたいデス!」

「今回体験させていただくお店は、壮五さんのお気に入りのお店でもあるんですよね!」

「はい、とても素敵な職人さんのお店なんです!」

「スペシャルということで、じっくり時間をかけてチャレンジしていきたいと思います。」

「それでは、『キミと愛なNight!』始まるよー!!」








僕達の冠番組の、スペシャルの収録が始まった。
みんなの気合いと期待が、サクサクと収録を進めていく。
なるべく普段通りの蒼さんと、IDOLiSH7の賑やかさで体験をお互いに楽しめるようにと、大まかな進行の流れ以外はほとんどアドリブで、その代わり臨機応変にという事だった。









「帽子職人をしています、末永(すえ)蒼です。今日は、どうぞよろしくお願いします。」

「お、なかなかの美人じゃないか。」

「オレ、職人って聞いてたからもっと髭モジャモジャのいかついオッサンかと思ってたよ。」

「アハハ、期待に答えられなくてごめんね。それじゃあさっそく、工房に案内します。」



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「わぁー、これが工房!!ねぇ、あの機械何だろう?」

「すっげー色んな道具がある!」

「今からみんなにはハットシェイプと呼ばれる工程にチャレンジしてもらいます。簡単に説明すると、まずこの木型にフェルトの生地を流して、次にこっちの金型でプレスするよ。」

「うわぁ、あっちぃー!!蒸気やべー!」

「なるほど、このスチームでフェルトの形を加工していたんですね。」

「師匠ー、この木のでっかいプリンみたいな形のやつ、重い?」

「木型よりも、金型の方が重いかな。ちなみに木型は最低でも一個十万円以上するから、大事に扱ってね。よし、さっそく始めよう!」







蒼さんの教え方はシンプルな説明でわかりやすく、僕達も真剣な顔で、そして時には笑いながらの収録になった。この店でこんな企画を請け負うのは初めてのはずだけど、蒼さんはまるでこれまでに何度もやってきたかのようなスムーズさだった。もしかして、個人的な帽子作りの講座か何かやっていたのだろうか?







「なぁ、師匠はイタリアに修行に行ってたんだろ?イタリアの帽子屋も、こんなふうにみんな自分の店で作ってんの?」

「海外では、割と多いかな。日本ではこういった全工程を全て一人で作業する帽子屋は・・・・・・今はかなり少ないかも?私に帽子職人としてのノウハウを教えたのは、祖父なんだよ。この機械や道具も、その頃からのものだよ。イタリアは私の修行というか、むしろ知り合いの工房やメーカーの工場で、これから働く若い新人職人達の技術指導のためなんだけどね。」

「やたら教えるの上手いとは思ったけど、まさかの修行を付ける側だったとはな・・・・・・。」







なるほど、また一つ謎が解けた。
蒼さんの主な資金源や収入源はこの店での売り上げではなく、それ以上に技術者としての所にあったらしい。確かにこれだけの職人技術に加え、日本ならではの細やかさなどは海外での受けもいいのかもしれない。ということはつまり、本場であるイタリアではそれなりに名が通っているのだろうか?
なぜ日本の、この店にこだわるのだろうか?







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そして迎えた、二回目の収録。
今回はいよいよデザインの体験が始まった。
各帽子の形の特徴など説明を受けた後、それぞれに好きな形を選ぶ。


一織くんは、海兵がかぶっている形のキャスケットで、最近モデルなどがSNSで着用している写真から広まり、人気をみせているマリンキャス。

大和さんは、ゴルフでもかぶれそうな大人らしいハンチング。

三月さんは、ベレーとしても楽しめるような、大きなシルエットが可愛らしいキャスケット。

環くんが、カジュアルな着こなしに似合うニット帽。

ナギくんは、まるで外国の紳士みたいな本格シルクハット。

陸くんは、その明るさが似合いながらも少しストリート色の強い、ストレートタイプのキャップ。

そして僕は、のり付けや乾燥が完了した、みんなでハットシェイプをしたあの中折れフェルトの仕上げと装飾を任されることになった。そんな大役申し訳ないような気がして、他の誰かに譲ろうとしたけれど、この企画とこの店は僕が提案してくれたのだからと言われ、ありがたくやらせてもらうことにした。



一織くんとナギくんは、蒼さんが作ったもので未装飾のものにオリジナルの飾り付けをした。

環くんと陸くんは、布やフェルトを自由に切り貼りしてオリジナルのワッペンを作り、それぞれ帽子に縫い付ける。

大和さんと三月さんは、いろんな柄や素材の布を選び数枚縫い合わせて、ハンチングやキャスケットの形を作るから大変そうだった。







「六弥さん・・・・・・せっかくの紳士の正装にそれはやめましょうよ・・・・・・。王室貴族からの悲鳴が聞こえるようです・・・・・・。」

「まじ☆こなヘアゴム、チャームの部分のみを活かして飾り付けマス!まじ☆こなシルクハット、ワタシの夢と愛が詰まってマス。ファンタスティック!」

「いおりん、三つ編み上手い。俺も、昔理に教わった。」

「私がやってるのは四本ですよ。」

「へぇ、環の王様プリン、帽子に付けたらなかなか可愛いかも!」

「陸くんの『i7』マークもとてもカッコイイよ。」

「ミツキ、ミシン上手いデス!」

「家庭科は割と得意だったんだぜ!」

「うわぁ、すごいなー!大和さんのそれ、つばの部分何の革ですか?」

「牛だ、牛ー。」

「牛!?それ、食える!?美味い!?」

「環くん・・・・・・。それは食べられないよ。」

「あ・・・・・・!また曲がっちまった・・・・・・あーもー、頼むからちょっと静かにしてくれー!!」

「Oh・・・ヤマト、集中力と同時にボビンの糸も切れました・・・・・・。」







僕達らしい、個性が光る帽子がどんどん仕上がっていく。
みんなどこか失敗しつつも、蒼さんが上手く手直しを加え、また指導する。それは、まるで魔法使いがステッキを振るみたいに。その指先が自由自在に僕達の帽子を完成へと導く。

残す撮影はあと一回。

この企画は僕にもみんなにも、蒼さんにも。
きっといい思い出になりそうだ。












本当に?














上手く言い表せない、この不安はなんだろう。

僕は何かを間違ったかな。

大きく動き出す予感・・・・・・。

預言者のあなたには、この物語の先が見えていますか?







蒼さん。







































(↓↓↓帽子の種類とイメージです。)






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