春とは未知への挑戦の時





僕は色々考えた。
別に今回の案のプレゼンをするわけではないけれど、お互いのメリットをはっきりと明確にしない事には、ただのノリで話を持ちかけられたように思われてしまうかもしれない。僕たちにとっても蒼さんきとっても意義のある企画だと言うことをしっかりと伝えたかった。

しかし、考えているうちにいくつかの問題が浮かび上がる。
まず、帽子作りを体験させてもらうとして、先日工房での話を伺った感じだと帽子作りは蕎麦や陶芸とは違って一つを完成させるのに時間がかかりそうだということ。何度か通って、制作側に編集を重ねてもらうこと前提でも、果たしてどれくらい期間を要するのか。
次に、メディアを通す事で発生する問題。
テレビ番組として流され、僕達アイドルがそれを伝えるということは少なからず反響を生むということ。かなりの確率で蒼さんの店や作品に注目を集めることになる。つまり、問い合わせが増えるということ。蒼さんは商業路線にはあまり乗らなそうなイメージがある。宣伝媒体となる店のホームページどころか、電話番号すら持っていない。僕達が関わることで出てくるその注目に、放送後どう対応するべきか。

僕はこの2つを考えた結果、ある答えにたどり着いた。
しかし、それを蒼さんが承諾してくれるか、その案に乗ってくれるかは、最早ちょっとした賭けだった。







「というわけなんですけど・・・・・・。」

「いいよ?こんな帽子屋に体験に来るなんて、なかなか無い面白い企画じゃん。」

「そのお言葉は大変嬉しいのですが、それだけ蒼さんの作品やこのお店が脚光を浴びるということになるんです。」

「別に、私はいつも通りやらせてもらうけど?」

「そういかなくなってくると思います。そこで、僕の提案なのですが・・・・・・。このお店をネットビジネスに対応させるようにするということです。」

「ネット?私、パソコン出来ないけど・・・・・・?そもそも持ってないし。」

「パソコン選び、サイトの立ち上げ、それに伴うオンライン化に必要であろうシステムの作成を、僕がサポートします。蒼さんはあまり商売に興味が無さそうだけど、上手く行けばこのお店にとっても蒼さんにとっても、かなりのメリットがあると思うんです。」

「正直、パソコンとかデジタルは苦手なんだけど・・・・・・。でも、うーん・・・・・・。そこまで言ってくれるのなら・・・・・・。やってみるか。そのオンライン化とやら。」

「悩みを聞いてもらって、おかげで僕、とても救われたんです。また自分らしく頑張ろうと思えた。その恩返しをしたいんです。」

「私は何もしてないよ。でも、壮五がそう言ってくれるなら、上手く行きそうな気がする。ぜひ、力を貸して。」







良かった。これで2つのうち一つ目の問題はクリア出来そうだ。
残る一つは。







「工程と、デザインとに分けるのはどうだろう?」

「と、言いますと?」

「そうだな・・・・・・。乾燥の時間を考えても、時間を置きながらハット造りを3回に分ければなんとかなる。それをみんなでやっていって、同時進行で1人1人がそれぞれに色んな種類の帽子のデザインをするの。縫い合わせとか、装飾なら、何とかなりそう。」

「デザイン・・・・・・。良いですね、僕達の個性が出そうだ!」

「物によっては、形は仕上がってるけど未装飾の帽子もけっこうあるから、それを使ってくれていいよ。」

「本当ですか!?ありがとうございます!出来上がった帽子は、番組サイドでの買取りという形がいいですか?それとも、このお店で売りますか?」

「元々がまだ値をつけたものじゃないし、半額にするからみんなでかぶりなよ。」

「半額!?装飾に必要なパーツや使用する生地も決まっていないのにですか!?」

「そのほうがわかりやすくていいでしょ。細かい計算は苦手なんだ。」







この人は本当に・・・・・・。
職人であるが故に商売っ気がないと言うか、よく今までこの店を潰さずにやってこれたなと思わず心配してしまう。
でも、だからこそ。
蒼さんは純粋に感覚の世界で生きているのだろう。そして余計な気がないからこそ、良いものを造りあげられるのかもしれない。
どうすれば有利に立てるか、どうすれば上手く収まるか。
そんなことを第一に教わり育ってきた僕とは、真逆だ。
自分と違いすぎるからこそ、惹かれるものがあるのだろうか。







「IDOLiSH7を。ぜひ、よろしくお願いします!」







結果、番組制作側との検討を重ねて撮影は2ヶ月に渡ることになった。
この帽子職人体験は今期の番組の大きな目玉として、時間を拡張しての特番枠での放送になる。
その間にも他の体験や番組コーナーの撮影なども入ることにはなるけれど、みんなも楽しみにしてくれているみたいで、僕も嬉しかった。

帽子屋プランタンのオンライン化。
FSCとして叩き込まれた自分のスキルを、こんな形で活かす時が来るとは思わなかったけれど。蒼さんのためなら、僕はそれを最大限に使いたい。そう思った。
お世話になったからという建前の上手さに、少しばかり苦笑いをしながら。












「忍び寄る影、略奪愛の気配・・・。次回、ソウゴに迫る危機。お見逃し無く。Yes、このサブタイトルで決まりデス。」

「何故それを俺に向かって言うんだ?ナギ。」

「危機って、復讐?ヤマさん、そーちゃんに復讐すんの?」

「成人指定したくなるようないかがわしい内容と復讐というワードは、最早二階堂さんの専売特許ですからね。」

「そしたら俺、かわいそうな壮五さんの味方になるよ・・・・・・。」

「ちょっと待て、しないから!オニーサン略奪愛も何もしないから!」

「ナギ・・・・・・。お前、冗談でもそれ壮五の前では言うなよ?アイツまた胃に穴開くぞ?」





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