灰色のかくれんぼ







『愛しさがー』
『募っていくー』
『僕の中でー』
『溢れ出すー』







レッスン室に響き渡る、僕と環くんの歌声。
MEZZO"の新曲発売が急遽決定した。
これから来る春になんとか間に合うようにと、かなりの急ぎ足で計画が進む。そして同時に僕達の練習や撮影などの予定もどんどん詰まっていく。
IDOLiSH7としての仕事も勿論あるし、環くんはまだ学生なので学校もある。僕は僕で、マネージャーの代わりにMEZZO"の打ち合わせなどにも参加しなくてはならない。

そんないっぱいいっぱいで、精神的に余裕のない時に、僕は気にするなと分かりつつも嫌な話を聞いてしまった。




それはMEZZO"での打ち合わせで番組制作側から。

「壮五くんももっと何か個性を出した方がいいよ、バラエティなんだから。君の相方の環くんみたいにさー」

そしてIDOLiSH7として出演したバラエティで、あまりこういう言葉は使いたくないけれど、いわゆる“おバカタレント“の共演者から。

「三月くんはMC、二階堂くんは役者、一織くんがクール系で陸くんはセンター、環くんは奔放で面白いし、ナギくんがモデルじゃん?壮五くんは?何の人?」





両方とも、好意的なアドバイスであったり、番組として笑いのポイントを取るためのものだというのは、理解している。事実、そのタレントの発言で笑いも取れたし、その後のメンバーからのフォローでIDOLiSH7の仲の良さを演出することも出来た。
以前からバラエティーに向いているメンバーのみんなと、バラエティーには不向きな自分の性格には気づいていたし、それなりに気にしてはいた。だから、『誰でも笑いをとれる変顔100選』だとか『今日からあなたも人気者に〜アメリカンジョーク集〜』だなんて本も読んでみた。自分なりに努力はしているつもりだけど、それが結果を生んだかというと全くだった。

忙しい時だからこそ、余裕のない心にはキツいものがあった。考えないようにしようとすればするほど考えてしまうし、それなら逆に考えに考えて解決策を見つけようとすればするほど、自分が色のない、つまらない人間だと認識させられているようで苦しかった。







『浮かぶ その笑顔ー』
「お気に入りのー・・・・・・?」







僕の個性ってなんだろう。
一織くんが言ってくれた、オールラウンダーとは。






「そーちゃん、そーちゃん!!歌、サビ!続き!!」

「はっ、ごめん・・・・・・!ついボーッとしてしまって・・・・・・」

「そーちゃん最近、ずっと何か考えてんだろ。なに?」

「大丈夫だよ、心配しないで。僕の個人的な事だから。」

「歌うの忘れられたら誰だって心配するっつーの!」

「それは・・・・・・、ごめん・・・・・・。」

「俺に言えない?じゃあ、他の人は?みっきーは?」

「だから、僕は、大丈夫だよ!ありがたいけれど、そんなに気にしてくれるなら、逆にそっとしておいてくれないか!?」

「そーじゃなくて、別に誰だっていーんだかんなって意味。そーちゃんが言いたくなったら、いつだって、誰だっていーんだよ。あー・・・・・・もう上手く言えねーし・・・・・・」

「環くん・・・・・・。」

「そーちゃんの話、聞いてくれる人、きっといっぱいいんよ。」

「ありがとう・・・・・・。大きな声を出してごめん。」

「その方が、分かりやすくていい。」

「環くん・・・・・・。よし、続き。頑張ろう!サビからね!」

「うす!」





再び声を合わせて歌い始める。
MEZZO"の新曲は春らしく明るい爽やかなポップナンバー。




『お気に入りの帽子の内側に
ドキドキを閉じ込めてー』




サビの頭の歌詞でふと蒼さんが脳裏を過ぎる。
現実に疲れた今。映画を観たり小説を読む事で現実から一度乖離し、特殊な環境下で己を見つめ直す事によって新たな価値観が生まれるように、またあの非現実のような空間へ行けば何か新しい答えも見えて来るのだろうか?
どこか不思議なあの人なら、蒼さんなら。
こんな時どう思うのだろう?
なんて言うのだろう?








レッスンが終わってすぐにスマホのウェブ入力画面を開き、お店について調べる。しかしあの辺の住所を入れても、帽子屋と入れても、看板に書いてあったプランタンという店名を入れても、一向に出て来ない。ホームページのような、お店のウェブサイトを持っていないのだろうか。ようやく見つかったのは唯一電話番号だった。営業時間などもとうとう分からなかったが、電話番号さえ分かれば直接聞けるだろう。

さっそく番号を打ち、やがてコールが鳴る。繋がった!

「すみません帽子屋プランタンでお間違いないでしょ・・・」

「はぁ!?テメェどこにかけてると思ってんだ!この番号は山賊ラーメン一号店だ!!二度と間違えるんじゃねぇ!!ガチャ────」







言っておくが、僕は番号を間違ったりなどしていない。
あの人は、この現代社会で本当に商売する気があるのだろうか・・・・・・。


















「そ、そ、そーちゃん怖い!誰か、あ!みっきー、ヤマさーん・・・!!」

「どうした環?」

「そーちゃんが怖い・・・・・・!あの目、おーさかせんせーのやつ・・・・・・!」

「ヒィッ・・・・・・!?ソウ、落ち着け、環と何があった!!?」

「俺何もしてねーって!!!」




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