after the rain 〜雨上がり






『君は今日もポーカーフェイス
仮面付けているみたいだ
背筋伸ばし歩くクールな眼差し
藍色に謎めいてる』



私の歌声と。



『一つの季節じゃ足りない
僕は四季折々 毎日君日和
テストの点にヘコむよりも
君を知らない 君が足りない 相当重症だ』



蒼さんの歌声。



蒼さんの人差し指が指した先を、私の指先がなぞっていく。
絶妙にずらされた振り付け。
追いかけるようにしては離れ、また離れていくようにしては近づく。



『どこから見てもパーフェクト!』



顔を見合わせて頷いてから、ドラマでもお馴染みの決めポーズ。






このドラマの大ヒットは確実だ。
この限定ユニットの歌う主題歌とダンスは、一大ブームとなるだろう。耳に残るフレーズに思わず真似したくなるダンス。誰もが気軽に動画を観て、配信できる時代。それが大きく味方するはずだ。下半期のベストワンくらい余裕で狙えるかもしれない。
この日、撮影現場の小さなモニターで繰り返し確認しながら蒼さんは、満足そうに何度も「よし」と小さく呟いていた。その満足そうな顔を見て、私は今回のW主演の相手が自分で良かったと思った。パーフェクトな蒼さんをここまで満足させることが出来たのが、自分で良かった。それはやはり幼稚な独占欲かもしれないけれど、そんな独占欲も今日は素直に肯定しようと思う。

ドラマ撮影、レコーディング、プロモーションビデオ。
無事全て終わった。
このスタッフ一同のチーム。
そして私と蒼さんのコンビは、今日で終了だ。







「お疲れ様、一織くん!」

「蒼さんこそ、お疲れ様でした。」

「すごく楽しかったよ。ドラマも初めてだったし、グループのメンバー以外と歌ったり踊ったりするのも、初めての経験だったから。」

「それは私も同じですよ。」

「いいライバルにも出会えたわけだし?これから色んな仕事をしていっても・・・・・・私、このドラマでのこと、ずっと忘れないと思う。」







おかしい。蒼さんが素直だ。
大きな事が終わった後の清々しさからだろうか?
いざ彼女が素直な時に限って、素直になれない。
身体が強ばる。
まるで脳と口先の言語を繋ぐパイプが切れたみたいだ。







「確かにいい経験でした。これでテクノテクニカルの名もまた広がることでしょうね。勿論、私達IDOLiSH7は更にその上を目指させてもらいますけど。どうぞいい踏み台になってくださいね。」

「本当、素直じゃないよね。一織くんは。それでもいいよ、私達だって負けないんだから。ほんのちょっと前の出来事なのに懐かしいな。覚えてる?一織くんが素直だったのって、あの雨の日くらいだよね。子猫を見つけた時。」







おかしい。完全におかしい。
ここはいつもの嫌味な毒舌が返って来るところではないのか。
少し見下すような、不敵な笑みを浮かべるポイントではないのか。
何故そんなに残念そうに、眉を寄せて笑うのだろう。
何故そんなに優しい声で話すのだろう。







「覚えていますよ。むしろあの後の蒼さんの態度が相変わらず過ぎて、あの日私が見たのは幻だったんじゃないかと思うくらいです。」







違う。
言いたいのはこんな事じゃない。






「一織くんが、あんな優しい顔をするの、知らなかったからさ。いつもクールでポーカーフェイスで。近寄ったらなんだか怒られそうで。でもね、きっと一織くんも私と似てるんだから、本当はもっと誰かと仲良くしたいのかもしれないって思ったの。私も上手いやり方が分からなくて、結局環くんと一織くんのことからかってばかりだったけれど・・・・・・。」







そうだったんですか。
おかげで私はてっきり、
私の事が相当嫌いなのかと思ってましたよ。








「一織くんの完璧な所、大好きだよ。でも・・・・・・不器用で、素直じゃない所はね・・・・・・。私、もっと好きだよ。」






かっこ悪い。
言いたい事は沢山あるのに伝えられない。
その上女の子に言わせてしまったなんて。
どうか、途絶えた言語能力、早く、復旧して・・・・・・







「一応クラスメイトだし?今までみたいに“仲良く”してね!じゃあね!」







彼女が走り出すその前に。






















「可愛い人だな・・・・・・。」







捕まえた。
腕の中が熱い。
こんな時までぶつかり合うかのような蒼さん心臓の音と、
私の心臓の音。
まだ早い、まだ重ならない。
意識するには十分で、認識するには足りなすぎる?
いいえ、もう、十分です。






「一織・・・・・・くん・・・・・・?」






「なんなんですか、その素直さは・・・・・・不意打ちですか。確かに私は素直じゃありません。表現も不器用ですし意地っ張りかもしれません。でも、諦めて認めます。この感情はいわゆる恋というものです・・・・・・蒼さんが好きです。」






一度封を開けてしまったのなら。
どんどん溢れて、止まらなくなる。






「一織くん・・・・・・?ホント・・・・・・?」

「こんな時に嘘をつく馬鹿がどこにいるんですか!ええ、そうです。本当ですよ。このドラマが始まる前から、テストで毎回同列一位を取るあなたが気になっていました。クールでシャープなはずのあなたが可愛い顔を浮かべて子猫を抱くのに驚きました。毒舌のラリーも内心楽しかったですし、普段仲良くしている四葉さんが羨ましかった。私はきっと、ずっとあなたが好きだったんです!ええそうです、大好きです!以上、簡潔に感想を述べてください・・・・・・!!」

「フフッ・・・・・・アハハッ!!」

「何故吹き出すんですか・・・・・・。」

「一織くん、面白い!可愛い!!」

「ば、馬鹿にしないでください・・・・・・!」

「してないよ、褒めてるの。」







気がつけばさっきまでのぶつかり合うような心臓の音が、
二人とも静かになっていた。
私はなんだか一気に力が入って、力が抜けて、不思議とスッキリしていた。
「面白い」、そして「可愛い」。
私の中で遠ざけていた二つの褒め言葉が、素直に嬉しかった。






「おんなじ気持ち、嬉しいです。こんな私ですが、どうぞよろしくお願いします。」

「蒼さん・・・・・・」

「ほらほら、普通キスするトコでしょ?」

「か、からかわないでくださいっ!!そういうのはもっと順を追ってですね!?」

「アハハ、やっぱり一織くん、面白い。可愛い。」







吸い込まれそうな切れ長の目。
目尻が柔らかく下がる。
そうだ、私はずっとずっと。





「一織くん、大好き!」







君の瞳に恋してる。
















「わ、私の方が大好きですよ。」

「えー?じゃあ、私はもっと好き!」

「可愛い人だな・・・・・・私はもっともっと、好きです。」

「ちょっと!?なによ、負けないわよ!!?」

「いいでしよう、私こそこの勝負絶対に負けません。」

「あ、見て!一織くん、一番星!」






END (endingへ続く→)








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