give out sparks〜火花を散らす
「アクション!!」
───「日も暮れてきた。そろそろ戻らないと、次は私達が痛い目にあいそうね・・・。」
───「そうですね、私だってこんな場所に長居はしたくありません。」
───「アハハッ、美咲くんってもしかしてオバケとか信じるタイプ?って、これは・・・!!これを見て・・・美咲くん!鉄が・・・この液体・・・硫酸!?」
───「危ないっ・・・素子さん、離れて!!」
「カットーーーー!!!OK、完璧だ!次のシーンはあと20分後に再開しよう。さすがパーフェクト高校生の2人だ、こんなにサクサク進む撮影は初めてだよ!」
監督の気持ちのいい声が響く。
素子と美咲、つまり知咲さんと私は、スタッフがタイミングを合わせて崩したセットの中で知咲さんの上から私が覆い囲っている状態のまま、どちらともなく動き出せずに互いに上がっている息を小さく殺していた。分かっているとは言え、崩れてきたセットに驚いたのか。それとも二本の腕の下で呼吸をする知咲さんの背中に緊張を覚えているのか・・・。
しかしいつまでもこうしている訳にもいかず、そっと崩れたセットをどかしながら起き上がり、知咲さんに声をかける。
「もう大丈夫ですよ。お疲れ様です。」
「こちらこそありがとう。背中・・・痛かったでしょ?」
「中身はただの発泡スチロールです。たいした衝撃ではありませんよ。」
軽い会話で緊張を解き、用意された折りたたみ椅子に座る。
お互い崩れたヘアセットやメイクを直されながら、次の撮影開始までと台本に目を通す。知咲さんは仕事に対してもかなり真面目な人らしい。捲った瞬間にチラリと覗いた赤ペンの細かい文字に、感心と好感を持った。その時。
「一織くんって、勉強以外も本当に完璧なんだね。芝居の間、呼吸、セリフのスピード。あまりにも完璧過ぎて、逆に間違える瞬間を今か今かと期待していたんだけど。全く期待に応えてくれなくて、ちょっとつまらなかったな。」
前言撤回。
それはそれはもう嫌味な笑顔で、まるで挑戦とも思える発言を投下してきた知咲さん。クールビューティーらしい端的でどこか品のある言い方が更に嫌味ったらしく感じさせた。
「それはどうも。私こそ、そのパーフェクトな身のこなし。まるでドラマ初挑戦とは思えませんでしたよ。そうですね、強いて言うなら語尾の発音が標準的な日本語の発音より少々長めだと違和感を覚えたくらいでしょうか?」
「的確なアドバイスありがとう。やっぱりパーフェクトな一織くんは気付くところが違うよね!私もパーフェクトなキャラが売りだけど、一織くんは男の子。もしこれが女の子だったらキャラが被って今頃どっちかが泣いてたかも。」
「如何なる場合だろうと私は泣いたりしませんよ。それに時と場合、やり方によってはマネージメント上二番煎じというのは非常に大衆に受け入れられやすいものでもあるんです。まぁ、私は決して二番煎じではありませんしそれ以上に実力も魅力も備え持っていますからね。」
「何よ・・・・・・?」
「何ですか・・・・・・?」
「言いたいことあるならハッキリ言えばいいじゃない?」
「あなたはもう充分過ぎる程ハッキリ言い散らかしてますけどね。」
バチバチ、とでも効果音を付けているかのように見合う。
見えない火花が飛び散る。
別にお互い何を張り合っているわけではないけれど、
彼女の放つ言葉の全てに悪意を感じる。
どうやらクールビューティーの裏の顔はなかなかの性悪だったらしい。
スタッフ達が私達の険悪な雰囲気にオロオロし始めた所で、監督の声がかかる。そろそろ次のシーンの撮影が開始するようだ。
「何だかさっきまでと違う変な空気流れてるけど、気を取り直して行くよ? アクション!!」
───「あなたはもうおしまいよ。さっさと観念したらどう?」
───「残念ですが、この音声録音が証拠です。」
───「クソッ・・・・・・!!お前達・・・・・・一体何者だ!!?」
───「青春しながら謎解きしちゃう、通りすがりの17歳、素子。」
───「愛読書は江戸川乱歩、同じく通りすがりの17歳、名を美咲。」
───「「またの名をっ・・・・・・パーフェクト高校生探偵!!」」
「カット!!!」
威勢のいい声が反響する中、監督が告げた。
スタッフや他の共演者たちから拍手が注ぐ。
「いやー、さっきにも増して息ピッタリだよ!」
「動きも、まるで鏡でも見てるみたいに!」
「流石役だけじゃない、リアルパーフェクト高校生の二人だな!」
「このドラマ、もしかしたらシリーズ化されるかもしれないぞ!?」
ガヤガヤと盛り上がるスタッフの中で、私と知咲さんは無言のまま見合う。廊下ですれ違う時のように。
けど、今は決してその瞳に吸い込まれたりなどはしない。
その瞳に滲む火花を、精一杯に弾き返していた。
私達が火花を散らせば散らすほど、撮影は上手くいった。
私達は完璧なまでに息を合わせ、ドラマの世界観へと引き込んでいった。
ほぼ当て書きとも言えるキャラクター性。
主演二人のビジュアル的な均等さ。
現役高校生アイドルの二人。
ヒットの確率と、その後シリーズ化の確率を頭の中で計算しながら 、何とも言えない心地よさを感じていた。
私は今まで、特にライバルという意識を持った相手がいなかった。ほとんどの事が人より上手く出来たし、それが自他共に当たり前になっていた。
今回初めて負けたくないと弾けば弾くほど、弾き返しされるほど、いいものが出来上がっていく。自分が磨かれていく感覚を知った。
可愛げのない毒舌には腹立たしさを覚えつつも。
知咲蒼という人間に、私の興味は耐えなかった。
ひどく不本意だ、と付け加えて。
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[mokuji]
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