curtain call






「今日は楽しかった。まさか蒼がこんなに興味を示すとは思わなかったよ。」

「私こそ、ありがとう!自分でもびっくりだよ。やっぱり、何でもホンモノを見ると世界が変わるんだね。それに天の解説、とっても分かりやすかったんだもん!」

「それなら良かった。僕も蒼の新鮮な反応に、まるで初めて観た時の事を思い出したよ。」






帰り道。
劇場の近くにある公園に寄った。誰も居なかったから天も安心して。子供の頃と同じように私はブランコに乗って、天はその柵に腰をかけて。今日みた感想だとか、天が今まで受けてきたレッスンの話だとか、盛り上がっていると思ったのは決して私だけではないはずだ。
そのうち天がIDOLiSH7としての陸の歌について話し始めた時、
私はふと思いついた。






「ねぇ、天。お願い!」

「何?」

「あのナンバー、歌って!二幕の、ヒロインの!!」

「今・・・?まさかここで・・・?」

「お願いっ!!どうか・・・九条天、いや、七瀬天今宵限りのショータイムを・・・!オンリータイム、ショータイムを・・・!!」






私の必死なお願いに小さく吹き出し、天は笑った。
こんな笑顔を見たのはいつぶりだろう?
TRIGGERとしての、九条天ではない、本当の天の笑顔。
それは、陸や私がいつも見ていた天の笑顔。
小さく咳払いをして、天が空を見上げる。
目を閉じ、天が歌い始める。







『君の笑顔があったから 僕は歌った
君の心が弾むようにと 僕は踊った
君の為なら何にだって 僕はなれた
二度と会えない場所へと旅立つ前に 伝えたかった真実
君の元を去ったあの日 それが君の為になると
僕が輝き続けたのなら どこに居ても君に届くのなら
その沈んだ心 疲れた身体 癒せると思った
またいつか会える日をただ信じて
こんな僕をどうか許して 天使よお願い
この想いを君に届けて・・・』








さっき劇場で席を立つ時に拭ったはずの涙が、また溢れだした。
天の歌声がいつもの甘い歌声ではなく、あまりにも素直だったから。天が「君」と歌う度、私にはまるでそれが「陸」と歌っているように聴こえたから。
陸、大丈夫だよ。
きっとそのうち、陸にも分かるよ。
陸の「天にい」は、今でも変わらず弟思いの優しいお兄ちゃんだよ。
そして、私はやっぱりそんな天の事が大好きだ。
一方通行、それでもいいよ。
「そういう事にしておいてあげる」って、とても便利な言葉だね。
優しい言葉、なのかもしれないね。
私は言葉に出すことの出来ない気持ちを込めて、精一杯天に拍手を送った。







「こんなこと、九条天では許されないからね。」

「フフッ、大丈夫!今のは七瀬天さんだったから。それにしても、天は即興でアレンジまで出来ちゃうんだね!一瞬、歌詞が違うからびっくりしちゃった。」

「別に・・・あまり深い意味は無いよ。日も暮れてきた。そろそろ帰ろう。」







駅へと戻る途中、私達は手を繋いで歩いた。
大丈夫。だって今は、今だけは。
七瀬天、なのだから。
さっきまでの弾んだおしゃべりが嘘のように二人共静かだった。
時々私を見る天は、いつもの流し目が嘘のようにぎこちなかった。そんな天に思わず私がクスリと笑うと、天は苦虫を潰したような顔でそっぽ向いた。








別れ際。







「今度は、陸も一緒に観れたらいいなー。絶対喜ぶと思う!」

「どういう意味・・・?」

「ただの感想!じゃあね、天。」

「こちらこそ。仕事、頑張って。」






急にこのまま帰るのが惜しくなって、私は天の耳に小さく呟いた。
内緒話をするように。





「今日の天、最っっ高にかっこよかったよ!」





そのまま軽く走り出す。
きっと天は真っ赤なリンゴのようになっている事だろう。
そんな事を思って一人ニヤニヤしながら見上げた空には、
双子座が綺麗に輝いていた。









END











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