第二幕





この後の激動の展開を漂わせるような音楽が鳴り、
幕が上がる。







第二幕



再びきらびやかな世界へと戻ったヒロイン。
そこで新たな仲間と出会い、時には争い、仲を深めていく。
だがそこでどんなに楽しく刺激に溢れた日々を過ごしていても、瞼の裏に思い出すのはあのショークラブ。
客と、オーナーと笑いあった日々に勝るものはやはり無かった。

敏腕プロデューサーのおかげもあり、ショービジネスの世界で名を轟かせたヒロインの活躍を知るかつてのオーナー。




『君が遠いよ 僕からは君が眩しい程によく見えるけど
君には決して僕の姿は見えないのだろう
君は忘れてしまっただろうか 愛に満ちた二人の日々
追いかけられない 今の僕に残されたものはこの愛だけ・・・』




無事仕事も軌道に乗ってきたヒロイン。
プロデューサーには内緒で別れたオーナーの居場所を探し始める。
しかし、それを知ったプロデューサーは自分のおかげで成功したのにと激怒する。





『勝手な真似は許さない
君がその気なら 私にも考えがあるさ
好きにはさせない 私の思い描くように
君は歌い続けるんだ!』




ヒロインの元へオーナーが死んだとの匿名の訃報が届く。
それはプロデューサーの仕業だった。
泣き崩れ、喪を思わせる黒い衣装を纏ったヒロインの切ないソロ。
このミュージカル最大のヒットナンバー。




『あなたの笑顔があったから 私は歌った
あなたの心が弾むようにと 私は踊った
あなたの為なら何にだって 私はなれた
二度と会えない場所へと旅立つ前に 伝えたかった真実
あなたの元を去ったあの日 それがあなたの為になると
私が輝き続けたのなら どこに居てもあなたに届くのなら
その沈んだ心 疲れた身体 癒せると思ったの
またいつか会える日をただ信じて
こんな私をどうか許して 天使よお願い
この想いをあの人に届けて・・・』




時は流れること10年。
やがてショービジネスの世界を引退したヒロインは、稼いだお金で小さなショークラブを開く。
そこにに集まるのは決してお金持ちではないけれど、皆歌や踊りを、音楽を愛する陽気な人ばかり。明るい歌声、明るい笑顔。
そこへ一人の客がやって来る。
それは死んだはずのオーナーだった。
再び愛を確かめ合い、喜びの歌声を重ねる二人。

ショークラブの客と全員での、賑やかなコーラスとダンスのフィナーレ。
私達観客の、溢れるような手拍子。





『ここに来れば夢が叶う
歌い 踊り 飲み 笑い明かそう
君が歌えば誰もがウットリ
手拍子は鳴り止まない
誰もが皆人生の主役さ
ONLY TIME , SHOW TIME !
おいで さぁ 君も』








天はこの作品が好きだと言っていた。
私はこの作品を観て、天の好きな世界をほんの少しだけど理解した。
そして、天の事もよく分かった。






ねぇ、天。
天はきっとこのミュージカルに自分を重ねているんだよね。
あの日、陸を置いて行ったのには、何かワケがあるんだよね。
天は、どんな道を選んでも、例え離れていても、
陸を元気づけたかったんだよね。
もしかしたら、いつかは陸の事を迎えに行こうとしていたの?
傍に居るのとは何か違う方法で、陸を守ろうとしていたの?
私には天が何を考えているかは分からないけれど、
天だって辛かったんだということはよく分かったよ。



だって、あのヒロインのナンバーの時。
天はとても哀しそうな顔をして、
そしてどこか少しだけ救われたような顔をして観ていたんだ。







「初めての観劇の感想は?」

「私、やっぱり天が好きだよ。」

「蒼・・・。それは言わない約束でしょ?僕が聞いてるのは感想だよ。」

「えっと、つまり・・・天が好きなミュージカル。私も大好きだよ、って事!」

「・・・今回はそういう事にしておいてあげる。」






一言目で、一瞬大きく目を見開いて怒った顔をして。
二言目で、ちょっと困った顔をしてあからさまにため息をついた天。
でもいつものクールな顔とは違って、少し照れたように視線を逸らして。
それが嬉しそうに見えたから。
だから、いいんだ。






私の方こそ、そういう事にしておいてあげる。







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