Overture






「ねぇ、天!ミュージカルを観に行こうよ!」






天は私の幼なじみだ。
そしてその天というのは、今日本を沸き立たせるあのイケメン三人組アイドルユニット、“TRIGGER”でセンターを務める九条天の事である。







「急に何を言い出すかと思えば。僕は忙しいんだから、蒼の気まぐれに付き合ってる暇はないよ。そもそも蒼はミュージカルなんて興味無いでしょ?」


「だって、この前インタビューで休日の過ごし方を聞かれてた時に、天はミュージカルを観に行くって答えてたじゃん!天が好きなものなら、私も好きになりたいじゃん!?」

「呆れた。そんな理由で僕を誘わないで。」

「いいじゃん、行こうよー?ね、お願い!!」

「・・・・・・。明日の午後。13時開演。場所、〇〇劇場。」

「それじゃぁ・・・天!」

「どういう偶然か僕の好きな作品がたまたま明日上演される。遅刻したら、一晩中正座だからね。」

「やったぁー!!絶対遅刻しませんっ!」






私と天、そしてIDOLiSH7の七瀬陸は幼なじみだ。
ご近所様だった私達は子供の頃からずっと一緒で。何でも出来て優しい弟想いの天と、病弱であまり外で遊べない陸。天が陸のために色んな歌を歌ったり、踊ったり、時にはお芝居もしたり。私はそれをいつも陸と一緒に観て喜んでいた。だから、天がアイドルになって、日本中を虜にしているのはすごく納得出来る。けど、天はアイドルになる為、陸とその両親を捨ててある男について行った。少しして陸と同じ、七瀬の苗字を捨て九条天と名乗った新人アイドルをテレビで観た時、私と陸はとても複雑だった。

陸は天を追いかけるようにして自分もアイドルになった。今やIDOLiSH7のセンターである陸を知らない人はなかなかいないだろう。
私は幼い頃と同じように二人の傍に居たくて、今はテレビ局でアシスタントのバイトをしている。下っ端とは言えこの業界に入った事で、無事天と陸の両方とまた繋がりを持つことも出来た。時々時間を見つけてはTRIGGERやIDOLiSH7の控え室に遊びに行けるし、そういうわけで私は今もこうしてここにいる。

私はずっと天が好きだった。
久しぶりに会った時に思わず気持ちを伝えてしまったんだけど、天は仕事に対してとても厳しい。「アイドルとしてわざわざ自らをスキャンダルの危険に晒すような事はしたくない」と言われてしまった。更に付け加えて、「今後またそのつもりで僕に関わろうとするのなら僕は蒼とはもう会えない」とも言われた。

そんなの嫌だ。
天を好きな気持ちを堪えるのは辛いけど、せっかくまたこうして会えるようになった天にまた会えなくなるのは、もっと辛い。だから私は今でも一方通行のままでいる。






それでもいいんだ。
また大好きな人が自分から遠ざかってしまうのは二度と経験したくない。だから、仲のいい幼なじみ。この距離感を壊せないし、壊したくない。






「明日、楽しみにしてるからね!」

「道に迷わないよう気をつけて。」

「天・・・!やっぱり天は優しいねぇ・・・」

「僕が寒い中待たされることになるから。」

「ありがとう、天!」






ミュージカルなんて初めてだ。
それになんと言っても天との約束。
デートと呼べないのがちょっと悲しいけれど、せっかく行く劇場。精一杯お洒落をして天をびっくりさせてやりたい。そんな事を考えれば、一瞬沈んだ私の気持ちはまた浮上した。
どんな作品なんだろう?天が好きな作品だと言っていた。
私は遅刻しないよう、スマホの目覚ましを十分置きに計二時間分セットして眠りについた。
















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