誰よりも近くで
「実は、私もそろそろ逢坂家を出てみようかと考えているんです。」
「本当に!?」
「ええ。両親の会社も、FSCのグループとしてですが無事に立て直して頂けましたし、何より“壮五さん”を見ていたら私ももっと色々チャレンジしてみたくなりました。それに、ちゃんと先のことも考えて一応これまでのお給料を少しは貯金していたんですよ。」
「そうだったんだ・・・。僕、何も知らなかった。」
「フフッ、誰も知らない秘密でしたから。」
10年間もの間呼んでいた“坊っちゃま”ではなく、“壮五さん”と僕を呼ぶのがぎこちない。そんな蒼さんが初々しくて可愛いくて、その照れた顔をもっと見たくて僕はむず痒い気持ちをあえて何も言わないでいた。これからどんどん馴染んで来ると思うと、それだけでこの先が楽しく思える。
「それで、これから逢坂家を出てどうするつもりなんですか?」
「まだ具体的にそこまでは・・・。とりあえず何か新しいお仕事を探すつもりではいるのですが・・・。」
夕暮れの海岸。
見渡してもここにはもう僕らしかいない。
これまでの事を僕達は話した。
最近の小さな事から、人生を変えたあの日の事まで。
そしてこれからの事を話していた時、僕はふとある提案が浮かぶ。
「僕達が今暮らしている寮での仕事はどうだろう・・・?」
「皆さんで共同生活をされているのですか?」
「そうなんだ。基本的に家事や炊事は自分達でしているけど、お蔭さまで僕達も最近忙しくなってきたから、もしかしたら・・・。ちょっと社長に交渉してみる価値はあると思ったんだ。」
「本当ですか!?でも、ご迷惑では・・・?」
「まだ何とも言えないけど・・・よし、蒼さん。今から一緒に事務所へ行こう!それに・・・。」
「それに?」
「今度は僕が蒼さんを応援したいんだ、誰よりも近くで。」
「いいね、そのアイデア!みんなで顔を合わせて分担して、協力し合う事でチームワークや互いの理解を深め合うのが当初の目的だったんだ。でも、確かに君たちもあの頃と比べられない位に忙しくなった。そして、素晴らしいチームワークを育てていった。僕達以外にも君たちをサポートしてくれる存在が、そろそろ必要なのかもしれないね。それに、あのFSCの逢坂家で仕込まれた家事炊事スキルがあるとなればまさに百人力だ。」
「社長!それじゃあ・・・」
「ああ。蒼くん、正式に君をこの寮でのお手伝いさんとして働いて欲しい。これからのIDOLiSH7がもっともっとフルパワーで活躍出来るように、どうか彼らを支えてやってくれないか?」
「ありがとうございます!このご恩は忘れません。不慣れな事も多く、至らない点ばかりかと思いますが、どうぞ宜しくお願いします!!」
「僕からも、本当にありがとうございます!」
こうして蒼さんは無事逢坂家を出て、僕達の寮で働く事になった。
メンバーのみんなは突然現れたお手伝いさんに驚いたけれど、すぐに喜び歓迎してくれた。
「にしてもよく無事捕まえたなー、よくやった、ソウ!」
「Oh・・・ソウゴのシンデレラBeautifulデース!これぞヤマトナデシコ、ニホンの奥ゆかしさ、yesジャパニーズビューティー!」
「手にキスをするのはやめろー!超警戒してるだろっ!?ごめんなー、可哀想に驚かせちまったよな?」
「私は社長の判断は正しいと思いますよ。歳もだいぶ上ですし、何より経験がありますからね。安心して任せられそうな方じゃないですか。」
「こらこらイチ、女性に歳の話をするなんて失礼だろ?それに何て上から目線だ。さっそくだけどお姉さん、今夜1杯付き合ってくれない?」
「何?菓子パー?俺も、参加したい。」
「違うよ環、みんなで蒼さんの歓迎パーティーするんだよ!そうですよね?大和さん!!」
「七瀬さんあなたはどこまで純粋なんですか。この怪しいおじさんは親しげな雰囲気を醸し出しつつもいかがわしい意味で蒼さんを誘っているんですよ。そうですよね、二階堂さん。」
「って、そんな汚いものを見るような目で俺を見るなよ・・・」
「歓迎会、パーティー、やりましょう!そしてまじ☆こな上映会も同時開催デース!」
「こんな感じだけど、本当にみんないい奴らなんだ。蒼さんもきっとすぐに慣れるって!何かあったら俺が相談乗るからさ!」
「ソウゴ、さっきから無口デス・・・。」
「お、そーちゃんヤキモチ?」
「ねぇ一織、壮五さんの笑顔・・・怖いんだけど・・・?」
みんなの賑やかさに囲まれて、戸惑いながらも蒼さんはとても嬉しそうだった。僕もまだ子供なのか、今まで僕が独占してきた存在をこうしてみんなと分かち合うことには正直・・・少し嫉妬心もある。けれど、助けを求めるような目で僕の方を見る蒼さんがとても可愛かったから、もう少しだけこの状況を楽しむことにしようか。
「「「ようこそ、小鳥遊芸能プロダクションへ!」」」
end (ending→)
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