聞こえてくる気持ち




「蒼さん!!」






ずっと会いたかった、こうして呼びたかったその名前を呼ぶ。
振り向いた蒼さんの顔は大層驚いていて、
目を丸くしたまま一言。






「壮五坊っちゃま・・・!」






蒼さんの声が僕をそう呼ぶ感覚に懐かしさと喜びを感じながら、込み上げる気持ちに震える。まるでずっと水を注がれずにいた植物が、久しぶりに降り注ぐ恵に命を取り戻すように。





「どうしてここへ・・・!?」

「事務所に投函されたあのフルムーンのポストカード、蒼さんですよね?嬉しかった。僕、夢を叶えました。アイドルになれました。蒼さんにも、ちゃんと伝えたいと思っていたけれど・・・。その、ここに来れば蒼さんに会える気がして・・・。」

「本当に・・・おめでとうございます。旦那様達に隠れて・・・ちゃんと聴いていましたよ、坊っちゃまの歌。時々は、テレビも。坊っちゃまがご活躍されている姿を、私はとても嬉しく、誇らしく思っておりました。先日所属事務所を知り、伝えたい気持ちがいても立ってもいられなくなり、お休みをいただいてお伺いをしようかと思ったのですが、もしお会い出来ても一体何と言えばいいのかと思い・・・。せめて気持ちだけでも伝わればとポストカードに託して逃げて来てしまいました・・・。」

「僕は・・・ずっと忘れられませんでした。蒼さんのことが。蒼さんの歌が。心の中で繰り返して、いつもそれに励まされて来ました。」

「坊っちゃま・・・。」

「だって僕は・・・、蒼さんのことがずっと好きだったから。」






ザザーッと大きく波が打ち寄せた。
やがて波は引いても僕の心臓の高鳴りは止まない。
この波の音に乗せて、伝えられるだろうか?
いつかに歌ったあの歌の、続きと一緒に。






『 この気持ちは
大切に思えば思うほど
波音のように
打ち寄せるから

いつまでもどこにいても 私は祈っている
あなたが星のように 輝くことを
隠れる前に見つけて 雲間に一瞬のフルムーン
海に架かった月の道は 未来へと続いてる

あなたの声が私の強さに変わる
私もここから歌い続ける 』







「だから、蒼さん・・・。」







しばらくして蒼さんが口を開く。
一瞬全てが止まったようなこの海岸の景色を、
蒼さんが再び動画に変えた。






「坊っちゃまからみたら、十も歳の離れたオバサンですよ?」

「そんなの関係ない!僕にとって蒼さんは世話係で、姉がわりで、でも放っておけない妹みたいで、でもそれ以上に大切な女性なんです。蒼さんがいてくれたから僕はここまで来れた。これから先も・・・今度はちゃんと僕の側にいて欲しい。」





「坊っちゃまのお優しい所は変わりませんね。そして、とても素敵な大人の男性になられたのですね。」

「蒼さん、もう子供扱いはしないで・・・誤魔化さないで・・・」

「違いますよ。
あなたのお気持ちが、ちゃんと聴こえてきたんです、“壮五さん”。」

「蒼さん・・・!」






僕の方へと蒼さんは一歩、また一歩、ゆっくりと近づく。
僕はいつからかぎゅっと握ったままの右手を解き、そっと差し出した。
蒼さんはフッと柔らかい笑顔を見せて僕の手を取った。
そうだ、この笑顔を僕はよく覚えている。
それは蒼さんが初めて逢坂家へ来た時の事。







「どうぞ宜しくね、蒼さん。」









この日、僕と蒼さんはまた新しい始まりを迎えた。




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