もう一度





少しづつ都心から離れ、やがて海岸沿いを走る私鉄に乗る。






自然の風景が残る沿線。通り過ぎていくその景色のどこかに、この10年間の僕と蒼さんが隠れているような気がして目を凝らした。いつだって優しく僕を見つめていてくれた蒼さん。その眼差しは姉のようであり、でも時々むしろ妹を思うようにハラハラさせられたり。僕が守ってあげなくてはと、幼いながらにそう思った。






叔父さんが亡くなった時、僕は悲しくて苦しくて、悔しくて眠れなかった。侮蔑の言葉を並べては会話に盛り上がりを見せる大人達。過程ではなく、結果のみで判断しては自分達の物差しでその優劣を決めつけて、幸せを決めつけて。そんな中で泣くことすら許されなかった僕を、泣いてもいいんだと、そのために自分はここにいるのだとそう手を握ってくれた蒼さん。

逢坂家を出て、僕がどこで何をしていようと、やっぱりあなたはちゃんと見ていてくれたんだ。僕を誰よりも応援してくれていたんだ。
胸に隠した、僕の小さな気持ちには気づいていなかったみたいだけれど。






あの日と同じ、乗り換えてから一番近くの海岸がある駅。
そこで降りれば、改札からはもう潮の匂いを感じる。
打ち寄せる波音がどんどん近くなる。






きっと、会える。
蒼さんはここにいる。






砂浜にたどり着いた僕は、辺りを見回す。
犬の散歩をしている老夫婦。砂の城を作っている子供。砂浜に何か文字を書いている恋人達。もしかしていないのかもしれない。オフシーズンとはいえそれなりに賑わう海で、1人取り残されたような感覚を覚えた。ここに来れば蒼さんが居ると、あの頃と変わらないと思っていたのは、僕だけだったのだろうか?





その時。





『この歌が聴こえたなら 私を思い出して
あなたが寂しい時も 寄り添うでしょう
ただ信じ続けて 負けそうなこの夜にも
あなたを照らす月は 輝き褪せない・・・』







澄んだそのメロディーは、
マイクなど無くてもどこまでも響き。
バックにオーケストラなんて無くても、
自然の潮騒を味方にしている。






僕はこの歌声がずっと聴きたかったんだ。
蒼さんに、会いたかったんだ。




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