満月が隠れるその前に
「へぇー、そんな事があったのか・・・。ソウのこの雑誌のインタビュー、けっこうマジで答えてるとは思ってたけど。」
「壮五さんが真面目に答えるのはいつものことだけど、熱が違いましたよね。」
「特集のタイトルはバレンタイン絡みでの『初恋の人特集』でしたね。」
「そーちゃんも、雑誌載って人探し始めた系?」
そう、なぜこんな話をここまでしてきたのか。
それはこの前の雑誌の特集がきっかけだった。それはIDOLiSH7の各カットを数ページ渡り載せた後に、初恋の人について、企画者×メンバーによるインタビュー形式での対話というものだった。
僕の場合、ただでさえFSC関連では弾圧も受けたりしているから、もちろん環くんの様にあからさまに晒すつもりはないけれど、どの道他に答えるような話も無いし、もし蒼さんが見てくれるのなら・・・。そう思い、僅かな確率にかけてみる事にした。
いざ仕上がった雑誌が事務所に届き、それをメンバーが蒸し返しだしては僕の答えた内容についての激しい質疑が始まり、観念した僕は蒼さんについてこうして打ち明け話をすることになったのだった。
「ソウゴのプリンセスは幸せ者デス。シンデレラのように、ガラスの靴を落としていってくれれば探し出せるかもしれまセンが・・・。」
「もし読んでくれたら相当ビックリすると思うぜ?だって、まさか壮五の初恋の相手が自分だなんて思わないだろう、そのお手伝いさん。」
「やっぱりそーちゃん過激ー。」
「俺だったら・・・そんな風に思っててくれたのはやっぱり驚くし絶対照れちゃうけど、すごく嬉しいと思う!壮五さんがこうして夢を叶えてるのを知ったら。」
「イイね ー、十歳差かー。お兄さん燃えちゃうなぁ。」
「オッサンは黙ってろ!!」
雑誌を捲り、記事を目で追う。
読み返すとかなり恥ずかしい気もするけれど、傍から見ればあくまでも普通のインタビューだ。もし蒼さんが気づいてくれることはあっても、これが原因でFSCからIDOLiSH7や蒼さんが酷い目に合わされる心配もないだろう。他のメンバーの内容だって僕と似たようなものだ。
幼稚園の先生、看護婦さん、それから・・・。
「ただいま戻りましたー!ん?おや、何だろうこのポストカード・・・。差出人が書かれていないけど・・・。」
「万理さん、どうしたんです?」
「今、ポストを覗いたら入ってたんだよ。消印も無いから、直接投函したんでしょうか・・・?」
そう言って万理さんが見せてくれたポストカード。
綺麗なフルムーンの写真。
裏を見た瞬間、僕は驚く。
『いつも見ておりますよ』
「これは・・・蒼さんの字!?」
「蒼さん・・・?壮五くんの知り合いかい?」
「万理さん!今ここへ帰る途中、万理さんくらいの年齢の女性とすれ違いませんでしたか!!?」
「女性?特に誰ともすれ違わなかったけれど、そんなに慌ててどうしたんだい?」
「蒼さん・・・。」
雑誌の発売はまだ先だ。
と言うことは、
今回の記事に関係なく僕の事を見ていてくれたのか。
気になる事は山ほどあるけれど、
今僕がとらなきゃ行けない行動はひとつだ。
「すみません、僕、ちょっと出かけます!!」
「行ってこい、ソウ。」
「Amazing!ガラスの靴、見つかりマシタ!」
「いっちょ男らしさ見せつけてやれよ!」
「逢坂さんなら心配ないと思いますが、くれぐれも週刊誌記者に気を付けて下さいね。」
「壮五さんカッコイイ!」
「うす。」
みんなの声に勇気をもらい、僕は走り出した。
今なら会える気がする、あの場所へ。あの場所で。
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