鳥籠から出た今だから




蒼さんは、元気にしているだろうか?
世話係の仕事は無くなった事と思うけれど・・・
今の仕事は辛くはないだろうか。
蒼さんの事だから、きっと一生懸命頑張っていることと思う。いつも僕のことを頑張り屋さんだと褒めてくれたけれど、そんな蒼さんは誰よりも頑張る人だったから。





僕が逢坂家を飛び出してから、かれこれもう1年が経った。
僕の世話係がなくなり、他の掃除や炊事をドジな蒼さんがちゃんとこなせているのだろうかと少し心配になる。でも、もううちに来たばかりの頃の蒼さんとは違うはずだ。なんせあれから10年、経ったのだから。





あの後、父から家出までの経緯を聞いたのだろう。
きっととても驚いただろうと思う。
時々、あの日蒼さんか大学から帰った僕に声をかけてくれた時。僕が素直に打ち明けていたなら何か違う今になっていたのだろうかと思うけれど、きっとこれで良かったんだ。僕は今夢を叶えて、アイドルになれたのだから。





蒼さんは、僕がアイドルになれたことを知っているのだろうか?お陰様で沢山仕事を貰えるようになってきた。テレビを付ければ色んな局で、IDOLiSH7の歌やバラエティが流れているし、その前から僕は環くんとMEZZO"としても活動をしている。しかしあの音楽を忌み嫌うような逢坂家で、テレビを観たりCDを聴いたりなんてとても出来るとは思えなかった。せめて、どこかで。僕がこうして元気にしているということを伝えられたらいいのだけれど。蒼さんの歌声を思い出す度、いつかあの海で一緒に歌った時のように今の僕の歌を届けられたのならと思う。





どんなに離れたって、僕の心の中ではいつだって蒼さんの歌声が響いている。僕の父、そしてFSCは蒼さんにとって恩人だとよく話していた。でも、逢坂家で働き続けることは蒼さんにとって本当にいい事なのだろうか?蒼さんだって本当はあんな閉ざされた場所から出て、自由に歌えた方が幸せなんじゃないかと思う。
逢坂家という鳥籠を出た今だからこそ、僕は心の声にもっと耳を傾けることの大切さを知ったから。






今の僕にはこうしてただ想うことしか出来ないけれど、
いつだって、どこにいたって。
僕は蒼さんを誰よりも大切に思っているから。






蒼さん。
あの優しい笑顔が曇っていないかと心配だけど、
どうかご無理をなさらず、お身体に気を付けてください。








この歌声が聴こえたのなら、どうか僕を思い出して。
あなたが寂しい時に、寄り添う事が出来ますように。





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