壮五とお手伝いさん

「よし、これで終わりですね!壮五坊っちゃま、片付きましたよ。掃除の間部屋から出ていただいて申し訳ありませんでした!っと・・・と、っと・・・うぁあっ!!!」






きっとこれがマンガだったなら、ビックリマークが3個くらい付いてガラガラガッシャーンとでも書いてあるのだろう。僕の部屋を掃除していた蒼さんは、自分でよけて置いておいた掃除用具に足をつまずかせてものすごい音を立てながら転んだ。おかげでせっかく綺麗になった部屋も、蒼さんの周りだけまた散らかってしまった。






「大丈夫ですか?僕も手伝いますから、一緒に片付けましょう。」

「やっぱり坊っちゃまはお優しいですね。涙が出そうです・・・!と思ったら・・・フフッ、もう出てました、涙。」

「ハハッ、蒼さんは泣き虫だなぁ。」





蒼さんはしっかりしてそうに見えて、実はなかなかのドジだった。蒼さんの仕事は主に僕の世話係だからまだいいけれど、これが仮に掃除専属の担当だったり調理場の担当だったら、もしかしたらすぐに解雇されていたかもしれない。
そしてそれに加えて涙脆い。嬉しくてもすぐに涙こぼすし、悲しければもちろん涙をこぼす。きっとそれだけ素直で優しい人なのだろうと僕はいつも思う。環境のせいもあってかあまり子供らしくない、そんな僕は自分の気持ちを素直に表現するのが苦手だから、時々素直に泣いて笑う蒼さんが羨ましい気持ちにもなったりした。

僕は年の割にしっかりしている方だと自覚していた。
けどそれはそういう風に厳しくしつけられてきたからだ。
だからおっちょこちょいな蒼さんのことを、姉がわりと言いながらも僕はどこかで、子供ながらに僕がしっかり守ってあげなきゃと思っていた。そしてそんな役目を自分に持たせる事がとても嬉しかった。それは今思えばただの親切や優しさだけでなく、まだ幼い僕の中で男としての意識が僅かながら芽生えていたのだろうと思う。






「それでね、ここをこうすると・・・ほら!完成ですよ、ルービックキューブ!」

「素晴らしいです、こんな短時間で!坊っちゃまの気分転換になればと用意しましたのに、坊っちゃまには簡単過ぎたのかも知れませんね。フフッ、お恥ずかしい事に私など一面揃えることすら出来ませんでした。さすがです、壮五坊っちゃま。」






「蒼さん、お菓子作りですか?僕も手伝いますよ!」

「ありがとうございます。それがなかなかクリームが上手くいかなくて・・・」

「そういう時は、ただやみくもに混ぜるだけでなく温度を少し冷やしてみるといいですよ。ほら、固まってきた!」

「驚きです、なんと坊っちゃまはお料理もお得意なのですね!おかげで美味しく出来そうです。飾り付けが終わったら、お紅茶を入れておやつの時間にしましょう。」







「坊っちゃま、今日は天気もいいですしお屋敷にあるテニスコートで身体を動かしましょう!」

「一応少し手ほどきは受けたことあるけれど、この家には特に相手もいないし、僕しばらくやっていないから鈍っちゃったかもしれないなぁ・・・。」

「あ・・・!!すみません、私また打ち返せませんでした・・・。私からお誘いしたのにまるで相手になれなくて・・・申し訳ございません。」

「気にしないで。ラケットを持つ時はこう・・・あ、そうそう!こんな風に握り方を変えるだけで軸もだいぶ安定するんですよ!」

「坊っちゃまはスポーツも万能なのですね!」

「そんなことないですよ。教えられたから、出来るようにと必死で努力しただけです。」

「でも、そんな頑張り屋さんな所が坊っちゃまの素敵な所だと思いますよ。坊っちゃまはきっと、将来立派な大人になるんでしょうね。」

「FSCの人間になることは、別にそんな立派な事じゃありませんよ・・・。たまたま僕はここに生まれたっていうだけです。」

「そういう意味ではありません。人一倍努力して自分を磨くということは、ただ偉いとか偉くないというだけでなく、それだけ将来壮五坊っちゃまが魅力的な大人になれるということです。努力はスキルの意味だけでなく、その人の内面もちゃんと磨いてくれるものだと私は信じていますから。」

「ありがとう。それなら、蒼さんも立派な努力家ですよ。こうして僕のために色々考えてくれて、良くしてくれる。僕、蒼さんが来てから毎日とても楽しいんです。」

「坊っちゃま・・・。いけませんね、また涙が出てしまいました。さぁ、そろそろお屋敷に戻って晩御飯の準備にしましょう。」






当たり前に頑張ってきた僕にとって、その当たり前を褒めてくれた蒼さん。毎日一緒に泣いて笑って(と言っても泣くのは主に蒼さんだけど)蒼さんとの日々は、一日一日が僕の中で大切な思い出だった。



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