ようこそ逢坂家へ
「壮五、新しくうちで働くことになった蒼だ。この家では主にお前の世話係として働いてもらう予定だ。まだ歳も若いし、お前は1人っ子だからな。姉代わりだと思って親しくしてやりなさい。」
これは僕が十歳の時のこと。
その日父が紹介したのは、新しく家で働くことになったお手伝いさんだった。名前は蒼さん。歳は僕と丁度十離れている。
僕は1人っ子が寂しいと思ったことはないけれど、僕の家は日本有数の大企業、ファイブスターカンパニー、通称FSCだ。幼い頃からいつも優秀な大人達に囲まれて、将来はこういう人間になれだとか、FSCを背負うものとしての心構えだとかを叩き込まれて育ってきたので、この時は一番自分と近い年齢で、そして厳格な父の口から「姉がわり」という言葉を聞いたのをとても嬉しく思った。
「よろしくお願いします、蒼さん!」
「こちらこそよろしくお願いします、壮五坊っちゃま。不慣れなことも多く、至らない点ばかりかと存じますが、どうぞ色々教えてください。」
「そんなに堅くならなくていいですよ。せめて僕の前では、普段通りの蒼さんでいて下さい。」
「お優しいのですね、壮五坊っちゃまは。」
「僕、嬉しいんです。今まで僕の世話係をしていたのは主に婆やだったから。婆やが亡くなってからは、特に世話係としてのお手伝いさんもいなかったので。」
「そうだったのですか・・・。これからは壮五坊っちゃまに寂しい思いをさせないよう、しっかり努めさせていただきます。FSCの跡取りとして日々忙しい坊っちゃまを支えるべく、私も頑張らせていただきます。私の前ではどうぞ甘えてくださいね。」
柔らかい笑顔。そして優しい声。
僕はお手伝いさんでありながら姉がわりという初めての存在に、少しむず痒いような照れくさいような感情を覚えて、頬を赤らめた。
「ようこそ、逢坂家へ!」
これが僕と蒼さんの最初の出会いだった。
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