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あれから一ヶ月が過ぎた。
僕はIDOLiSH7やMEZZO"、個人などの様々な仕事を忙しくこなす合間に詩を書いては何か違うような気がして、また書き直してを繰り返していた。蒼さんが言っていた、ありのままの自分というもの。それは自分の中ではでは分かっているつもりでも、いざ言葉にするとまるで違う僕になってしまう。推敲を繰り返すうちに僕は一体何なのだろうか、どんな人間なのかとつい見失いそうになる。
音楽を歌うことはあっても、作る側の苦労を経験するのは初めてだ。遠くなっていく答えを追い求めて、自分の存在を、歌を確かめる。それはとても孤独な作業だった。
蒼さんはこんな孤独の中で、常に仕事をしているのだろうか?提供するアーティストのイメージを求めて、また、求められるものに応えるように足しながら、削りながら。僕達が歌ってきた歌が、そして蒼さんがくれたMEZZO"の新曲がどれほど尊いものだったのか、僕は改めて感じた。
「ソウ、なかなか思いつめた顔してるなー。例の歌詞、まだ出来ないのか?」
「大和さん、僕は・・・・・・一体何者なんでしょうか・・・・・・。」
マネージャーから今回の件はIDOLiSH7のみんなにも伝えられた。正直、抜け駆けみたいに思われないかと不安だったが、聴いてみたいと、頑張ってと温かい反応に嬉しくなった。
「その作曲家・・・・・・ソウの事、試してるんじゃないか?」
「試してる?」
「きっと、もう全部分かってる様な気がするぜ。」
「全部って、何の事ですかね・・・・・・?」
「さぁな。ただ、俺達の世代でこの音楽シーンを駆け上がってきた人間なんだ。色んなものを見て、経験して来たに違いない。ソウ、お前がどんな人間なのかはきっともう見抜かれてる。それを破って欲しいと言いたいような気がするんだよなー。」
掴みどころのない大和さんの話。
分かるようで、あと1歩答えに届かない。蒼さんが僕を試している?何故?何のために?
「そーちゃんは、実は激しいよな?大人しそうに見えて、実は思い込んだらそーとー激しい。」
環君。
ドア、壊したりしてゴメンね。
「ダイジョーブと言っていても、ダイジョブそうには見えない時がありマース。ガマンも大切ですが、頼る事はもっと大切かもしれまセンね。ワタシ達は、7人で1つの運命共同体デスよ?」
ナギ君。
ちょっと照れると言うか・・・・・・恥ずかしいな。
「ほらナギ、お前が恥ずかしい事言うから壮五が余計困った顔になっちまったじゃんか。あんまり深く考えんなよ?オレ達と一緒に居て楽しいと思ってくれてる事は、みんなにちゃんと伝わってるはずだぜ?」
三月さん。
三月さんのそういう明るさにいつも助けられます。
「逢坂さんは変幻自在のオールラウンダーなんですから、それと同じようにもっと壁を壊して素直に自分を表現すればいいんですよ。」
一織くん。
そういう君だってもっと素直になっていいんだよ。
「でもオレ、壮五さんのそういう所も好きだなー。優しくて、頭も良くてしっかりしてて、でもやっぱり普通に悩んだりするんだって。みんなと同じなんだって、思うんです。」
陸君。
やっぱり君の素直さには敵わないな。
「みんな熱いねー、青春だなぁ。ま、みんなソウが思ってる以上にこうしてお前の事見てんだよ。いい機会じゃないか。今度は自分を見つめる番、ってな。」
大和さん。
そういうあなたも充分熱いですよ。
いつの間にかみんなが集まっていた。
それぞれにそれぞれの良さがある。でも、ダメな所もみんなの中に居るから愛おしく思える。みんなで分け合って、助けあって行けばいいんだ。
片目でしか見ていなかった「僕らしさ」というものが、今度は両目でしっかり見えた。ピントが合わずあやふやだったそれは、僕とみんなの2つの目から見ることでクリアになった。
「みんなありがとう。少し、分かった気がするよ。きっといいものが仕上がる!」
胸に広がるみんなの優しさと熱さを抱えながら、部屋に戻りベッドで目を閉じる。
蒼さん・・・・・・。
僕はこの気持ちを歌いたいです。
仲間から貰った優しさや、勇気。
そして、あなたが教えてくれた音楽への情熱。
おじさんの話。
そして、僕は蒼さんの事が・・・・・・。
一気に書き上げた歌詞を蒼さんへと送る。
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翌日、蒼さんからメッセージが届いた。
『気持ち、受け取ったよ。』
その後どんな事が起きるかなんて、この時の僕はまだ何も知らずただ書き遂げた事に満足していた。
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