「すみません、MEZZO"の逢坂です。」


チャイムを鳴らし、インターホンでそう告げるとドアが開く。重たい防音壁のドアからは、以前と同じように蒼さんよりも早く珈琲の香りが出迎えてくれた。

一体どんな要件で自分は呼ばれたのか。蒼さんが何を話したいと思っているのか。おじさんの事か、それとも・・・。
案内されたソファーで1人考えを巡らせていると、コトッとマグカップが小さなテーブルに置かれた。この前と同じマグカップだけど、今ここにいる僕はこの前とはまるで心境が違う。


「話したい事ってのはさー・・・・・・。」

「はい。」


前置きもなく突然本題に入る。
でもそんな真っ直ぐさが彼女らしい。
一体何の話だろうか。


「壮五君は本当に歌いたい歌、歌ってる?」

「歌いたい歌・・・・・・ですか?」


どんな話が飛び出るかと思い身構えていたが、それは予想なんて付かないような事だった。

確かに蒼さんは作曲家であり、音楽の話を振られるのは当然なのかもしれないけれど。僕は一体何を期待していたのだろう。


「この前色々話した時の事なんかを思い出しても、壮五君はすごく色んな音楽を聴いてるよね。アイドルソングはもちろん、ロックからエレクトロなクラブミュージックまで。」

「そうですね・・・・・・確かにジャンルはあまり気にせずに、いいと思ったものは広く聴いてると思いますけど・・・・・・」

「アイドルをやっていて、グループに所属していて。まぁ、MEZZO"も同じように考えて扱うとしても・・・・・・どうしても、決められちゃうでしょう?楽曲の方向性が。」

「僕はあくまでも、IDOLiSH7とMEZZO"の逢坂壮五であって、個人プレーをしている訳ではないですからね・・・。」

「そう。でも新曲を聞いてて、もっと壮五君単体にスポットを当てたら何かいいものが生まれるんじゃないか、そう思ったの。」

「と、言いますと・・・・・・」

「ライブのみでもいいから、壮五君のソロ曲を作ろうよ?私が曲を提供する。是非、歌って欲しい。」

「本気ですか!?それはもちろん、そんなこと出来たら素敵だとは思いますし、面白いと思いますけど、事務所がなんて言うか・・・・・・」

「フフフッ、実はもう既に!!」

「蒼さんもしかして・・・・・・」

「そう!小鳥遊社長とマネージャーの許可はとってあります!!」


ソロ曲なんて、本当に頂いてしまっていいのだろうか?それになんて言ったって蒼さんの曲だ。そう謙遜な思考の裏で、今にも踊り出しそうなくらいの歓喜が湧き上がる。


「それでね、歌詞を壮五君に書いてきてほしい。」

「歌詞、ですか・・・・・・。書いたことないんですけど、大丈夫でしょうか?」

「大丈夫大丈夫。但しどう書いたらファンが喜んでくれるとか、人に受け入れられるとか、そんなの一切考えないで。今の壮五君のありのままを、そのままバカ正直に投影させて。逢坂聡の曲みたいにね。」


ニコッと思い切り笑いながら蒼さんはそう言った。それだけで僕の心臓は早くなる。誤魔化そうとすればするほど、全身が熱くなる。


「分かりました、約束します。絶対に素晴らしい曲にします。僕のために蒼さんの音をください。」


僕に出来ること、僕だから出来ること。
そしてそれを蒼さんだから一緒に出来るということ。
仕事と、それ以上の気持ち。

気持ちの置き場が見つからない中で、等身大の自分を歌詞に映し出せば少しは何かが変わるのだろうか。
部屋の机に向かい、紙とペンに添えられた自分の指先を見つめた。


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