「人並みを外れて背の高い俺が隣にいて、普段より人の視線を集めるだろう」


あれ? 身長のこと?
私に向けられてる視線のこと?

何故そんな今更なことを言うのだろう。

結局、自分に向けられてる女の子たちの視線の意味、わかってない?


「周りから視線を向けられるのが嫌だったのだろう」

「ちが、」

「楓は」


嫌だったのは、ツキが、周りの見知らぬ女の子たちから好意の目で見られること。

説明しようとした私に、ツキには珍しく言葉を遮る。
私はツキの話が終わるのを待つ。


「楓は自分の身長を気にしているんじゃないか? 俺といることで、常にそれを意識しているのではないか?」


私は、先ほど遮られた、その先の言葉を飲み込んだ。

思考が急速に回り始める。

自分の身長を意識する?
自分の背の高さが嫌だと思っているとでも?
今までそんなこと、私は思いつきもしなかった。

嫌なのは女の子がツキに向ける視線のこと。
私に向けられる視線は背が高いからというだけのもので、今までずっと仕方ないこと、当たり前なことだと思ってた。

ツキは違った?
ツキは、自分の身長を気にしてた?

出会ったきっかけは、確かに互いの身長だった。
でも好きになっていった理由は、身長ではないのに。

私といることでツキに気を使わせて、その上コンプレックスを刺激しているのなら。

もう離れよう。

一緒にいるべきじゃないんだ。

ツキはきっと、私と違って背の低い娘と付き合うべきなんだ。


「ツキ」


もう、ツキを解放しよう。


「別れよう」


時が止まるとはこういうことを言うのだろうか。
たった一言、宙に放っただけで、お互いに言葉を失ったみたいだ。

長い、長い沈黙。ツキは何も言わない。

ツキの表情は変わらず、瞳は前髪に隠れたままで何も窺えない。

居たたまれなくなって、立ち尽くすツキに踵を返して、逃げるように駆け出した。


家に帰りつき、部屋に駆け込んでベッドに身を投げ出す。

「今までごめん」とか「ありがとう」とか、今になって言いたいことが湧いてくる。

携帯を手にとったけど、どんな反応が返ってくるか怖くなって、なにもしないまま手放した。



お土産をツキに持たせたままだったことに気づいたのは、次の日学校についてからだった。



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