まるで水面のような、平均的な身長の人波の中から、一人、顔を出していた男性がいた。
出会ったきっかけは、確かに互いの身長だった。
打ち解け合い、付き合いはじめるには然程時間はかからなかった。
デートは専らどちらかの家を訪ねて、あまり外出はしなかった。
私たちの身長は人目を惹くから。
その上ツキは銀に青メッシュという奇抜な髪の色。その前髪に隠れた顔もいい。
自分の恋人が女の子たちに、明らかな好意の目を向けられているのは、気分の良いものではない。
互いに外でデートしようと言い出すことはなかったのだけれど、バイト先の店長から遊園地のペアチケットをもらってしまった。
無下にはできないと、ツキを誘って行くことになった。
滅多にない外でのデートで、初めて二人で行く遊園地。
周りの視線のことなど忘れて楽しみにしていたんだ。
当日は入場して早々に、急かすようにツキの手を引いて歩いた。
はじめに指差したのは宙吊りジェットコースター。
しかしツキは静かに首を横に振った。
「これは乗れない」
ツキは絶叫マシーンが苦手なのだろうか。
「苦手だった?」
「いや……身長が」
「え?」
明らかに130cm以上あるのに、何故?
「宙吊りになるジェットコースターは、200cm以上の者は乗れない」
「そっか」
高すぎても駄目なのね。
宙吊りジェットコースターは諦めて、他の絶叫マシーンをいくつか乗った。
日が高くなり、お昼時。
売店やレストランが混んでいたので、人が空くまでと入ったお化け屋敷。
中は薄暗く、前がよく見えない。
先ほど上手く潜り損ねたドアの、上枠に頭をぶつけたツキ。
それ以来、私はビクついてばかりだ。
お化け屋敷が怖いのではない。
斜め上からガコッ、とか、ドゴッ、とか聴こえる度にビクビクしてしまう。
ああ、また。
「ツキ、大丈夫?」
「……問題ない」
と言いつつも、手を繋いでない方の手で額を押さえるツキ。
この後も五回くらい頭をぶつけていた。
ずいぶんと長く感じたお化け屋敷を出て、待ちのなくなっていたカフェテラスでの昼食。
ピークより大分人は減っていたけれど、集まる沢山の女の子の視線。
好きな人がじろじろ見られているのは、気が気でない。
隣に座るツキを見上げても、気にする様子はない。気づいていないのかもしれない。
「どうした?」
「何でもない」
会話が弾まないのはいつものこと。
普段なら沈黙は苦にならない。
でもこの時ばかりは、沈黙が気まずく思えた。
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