『楓は自分の身長を気にしているんじゃないか?
俺といることで、常にそれを意識しているのではないか?』


外でデートする度に、身長が高いが故に行き交う人々から向けられる視線、些細な言葉。
それはもはや当たり前で、一人で歩こうがツキと並んでいようが変わらない。


「私はそんなこと思いつきもしなかったのに、ツキがそう思ってたってことは『ツキは気にしてたのかな』って」


好きになっていった理由は、身長ではないのに。


「私といることでツキに気を使わせて、その上コンプレックスを刺激し続けるくらいなら、もう離れようって思ったんだ」


瞬きひとつせず、綾織ちゃんの視線は空になったコーヒーカップを見つめたまま。

沈黙の中で、事務所に掛けてある時計の秒針だけが、カチコチと数回鳴った。


「ところで仁王くん」

「なん?」


顔を上げた綾織ちゃんがニヤリと口角を上げた。


「遊園地に行ってたことを知ってたってことは、さては仁王くんもデートだったんでしょ」

「……まあ、の」


確かに、こっちはこっちでデートしとったがの。


「お幸せにね」


どんな顔でそう言ったのかは、立ち上がり踵を返した後じゃったからわからんけど。
泣きたくなるくらい、優しい声色じゃった。

休憩時間が終わって勤務に戻る綾織ちゃん。

その背中を見送って、携帯を取り出した。


「先輩、ちょっと聞きたいんじゃが……」


好きで掛ける相手じゃないが、大事なバイト先の先輩のためじゃ。
お節介かもしれんが、まーくん、一肌脱いじゃる。



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