屋内プールと医務室にて
<御景視点>
普段は施錠されていて、本来なら誰ひとりいないはずの屋内プール。
その誰もいないはずのプールサイドに倒れている少年と少女。眺める自分。
二人はしばらくして身動ぎし、目を醒ましたようだ。
男子は青学の越前龍乃。
女子の方は大会中に見かけた覚えがある。確か立海の幸村の妹だったか。
「越前、幸村妹」
呼び声に反応して、瞼を擦りながらこちらを向く。
越前は胡座をかいて片膝を立て、幸村妹は正座で座り直す。
どこか不機嫌そうな面持ちで俺を真っ直ぐ見る。
「私は彩音。……幸村彩音。またさっきの呼び方したら、あなたのこと苗字で呼ぶからね」
「……何故、知ってる」
苗字で呼ばれることを嫌っていると、この少女が知っている。
「お兄ちゃんから聞いたの」
「多分、一部の学校のレギュラーとかには知れてると思うんだけど」
「そうか」
「アンタが顔晒してるのも珍しいよね。全国以来なんじゃない?」
全国大会の三回戦、S1でコイツと当たった時。
俺は公式戦の場で、初めてフードを取った。
「本来プールの出入口は施錠されている。誰も来ないから目立つこともない」
「ふーん…。そもそも、なんでプールにいるんスか、俺たち」
「わからない。気がついた時にはここで倒れていた」
「多分、そろそろ交代の時間なんで俺は行くけど、御景さんは行かないんスか?」
「万葉が戻ってくるだろうからな。もうしばらくここにいる」
「……時間になったら、模擬店に戻ってくるよう伝えてください」
「……確約はしかねる」
手塚や白石、橘がいれば大人しく引きずり戻されるだろうがな。
「彩はどうしたい?」
「お兄ちゃんがどこにいるかわからないから、ついてく」
「ん」
越前が立ち上がり、幸村妹の手を引いて立ち上がらせる。
「それじゃ御景さん、また後ほど」
二人は手を繋いで屋内プールから出ていった。
敢えて「後ほど」という言い回しを使ったのは、また結果発表の時にでも顔を合わせるからだろう。
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