女の子の幽霊?
<桃矢視点>
「「キャーーッ!!!!」」
変な悲鳴が聴こえて目が覚めた。男の声だった気がする。
瞼を擦ながら、まだ焦点の合わない目で周りを見渡す。
ここはどこだ。
暗い。そして広くはないようだ。
複数人の走ってくる足音が聞こえる。
「どうした神尾、石田」
「た、橘さんっ」
「中から、聞き覚えのない女の子の声が、」
「会場前だから、まだ誰もいないはずなのに」
「……なんか変な声が聴こえたと思ったら……男が『キャー』てなんだよ、気持ち悪い」
「深司、何か知らないか?」
「知らない。俺、神尾たちより後に来たから」
「ほ、本物が来たとかないよな? ちゃんとお祓いしたもんな?」
「ところでどんな声だった?」
「小さい女の子が泣きながら『ここどこぉ?』とか『お家に帰してぇ……!』とか」
「女の子の嗚咽が妙にリアルで……あと『お兄ちゃんどこに行ったの……!?』とか、言ってたよな」
……なんだか、聞き覚えのある声と名前が多いな。
「お兄ちゃんどこぉ……!?」
聴こえた。この声は従妹だ。確かに聴こえた。この空間の近くのようだ。
「李っ!!いるのか?」
「!! 桃矢兄さんっ!?」
いた。視界が悪い曲がりくねった通路の向こうから従妹が現れた。
駆け出した小さな身体が、立ち上がった俺の腕に飛び込む。
「桃矢兄さんっ、お兄ちゃんいなくなっちゃったの!!」
「落ち着くんだ李。詳しく教えてくれないか」
「わ、わかんないの、あのね……」
「誰かいるのか?」
聞き馴染んだ声。近づく足音。
「親父?」
「伯父さん?」
俺たちは声のする方を向いた。
固まる、その人と俺たち。
「……は?」
「「え?」」
現れたのは、制服に身を包んだ、若かりし日の橘桔平だった。
ただただ無言で互いを見合う。
沈黙を破ったのは李だった。
「伯父さんが若い……」
「李、今は伯父さんと呼んではダメだ」
「なんで?」
「俺たちの知ってる人とは違うからだ。とにかく呼んではいけない」
この人は学生で、まだ息子も姪っ子もいないはずの人なんだ。呼んではいけない。
「いったい、どういうことだ?」
すまないが、俺にもわからない。
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