<直紀視点>



がむしゃらに走り続けていたら、屋外の模擬店スペースまで来てしまった。

開場時間まで一時間を切っている。
周りにはちらほら生徒の姿が増えていて、思わず走るのを止めた。

化粧をしているものの、あまり目立つ行いは避けるべきですね……。

自分も制服を着ているので隠れることなく、未来から来ている人がいないかと捜し歩く。

しかし程無くして、山吹のもんじゃ焼きの前で千石清純に声を掛けられた。


「そこの可愛いお嬢さ……あれ? キミ男子?」

「男子ですよ」

「あ、声が男だ」


制服でわかるでしょうが!
千石真純といい、親子揃って見間違えるとは。失敬な。


「でもキミ、メイクしてるよね。趣味?」

「いえ、女性に見られないための化粧ですから」

「いや、むしろスッゴく女の子に見えるよ」


「はい、鏡」と手鏡を渡されたので、渋々鏡の向こうを覗いてみる。

しまった。今回は確認し忘れていた。

怒りに震える手。今にも手鏡を地面に投げつけたい衝動を抑え、彼に返す。


「ありがとうございます……」

「あ、うん、どういたしまして……」

「急な用事ができましたので失礼致します」


今日こそは赦しませんよ。仁王雅明。

とりあえず、踵を返し元来た道を駆け出した。







走り去る直紀の背を見送り、頬を掻く千石。


「今流行りの男の娘かと思ったけど、何だか訳ありみたいだね……」

「せやな」


今まで遠巻きに眺めていた白石が隣に来て同意する。
並び立つ二人を見た壇が声を上げる。


「あ、二人とも来てるならこっち手伝って下さいです〜!」



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