<公視点>
とりあえず一旦、報告のため屋内テニスコートに移動するらしい。
左前に幸村さん、右前に滝さんが歩く。
本館を出て左に曲がったところで、滝さんの首が左に回った。
「ミコト君。あまりしんちゃんで遊ばないであげて」
ああ、そういえば混乱を避けるために名前で呼び合うんだったな。名前覚えてなかったら逆に混乱すると思うが。
幸村さんが頭を右に向ける。
「えー、だって絶対反応が帰ってくるんだもん」
「その気持ちはわかる。でも俺たちが遊びすぎて、しんちゃんがその事に気づいて遊べなくなったら困る」
「結局、アキさんもしんちゃん呼びしてますよ」
「じゃあ公もしんちゃん先輩て呼んであげなよ」
「アキさん、遊びすぎるなと言った手前から」
急に幸村さんが振り向く。
「キミってのもめんどくさいよね。二人称の君なのか、名前の公なのかわかんないよ」
「俺のせいではありません。それにアクセントの付け所違うでしょう」
そんなこと名前をつけた親に言ってやれ。
「そういえば公、なんで髪型キノコにしなかったの?」
滝さん、その台詞、俺が入部してから、数えるの止めるくらい聞いてます。
「そういう自分は何故そんなに髪を伸ばしているんですか?」
滝さんの前髪は父親そっくりに切り揃えられているが、後ろはとても長く一つに纏めている。
「いっそのこと、髪を上に逆立ててタケノコにすれば良いのに」
「あはは、キノコとタケノコ!俺はキノコ派だ」
「俺も!たまに欠けてるのあってほぼチョコだけのとかあるよね」
「俺の質問は無視ですか」
誰かこの先輩方の手綱を引いてくれ。
「俺、この頃の宍戸さんと戦ってみたいな」
「だったら開場前に上手く捕まえなきゃね」
「「ふふふ」」
「……楽しそうですね、二人とも」
思考回路だけはどこまでも自由だからな。俺は止めないぞ。俺では滝さんは止まらないからな。
どうして忍足さんでなく滝さんが、宍戸さんと倉庫に残ってくれなかったのか。
我が道を行く二人の半歩後ろで、こっそり溜め息を吐いた。
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