「という訳で、これから皆のこと名前で呼ぶけど許してほしい」

「おう」

「了解」

「わかりました」

「呼び捨ては構へんけど、しんちゃんは止めや」

「それじゃ、早速テニスコートについてきてほしい」

「いや、待ってくれ」


踵を返した幸村を呼び止める。
幸村は再びこちらを向き直った。


「どうかしたのかい?」

「俺はいい。お前らだけで行ってくれ」


幸村が首を傾げる。
同じく不思議に思ったのか日吉が問う。


「何故、ですか」

「氷帝の制服着てて車椅子に乗ってんのは、かなり目立つだろ」


『車椅子に乗る氷帝生』なんて顔が知れてるだろうヤツが見たこともないヤツだったら。
当時の生徒会長、跡部景吾は全校生徒覚えていた、と聞いたことあるしな。
すぐに現在の氷帝に籍がないことがバレるだろう。


「確かに今の時間はまだ参加校の生徒しかいないからね。だけどいつまでもここにいるのは良くない。いつどこの生徒が来るかも知れない。開場して人が増えて、あまり周りに注意が向かないくらいになったら出よう」

「ほんなら、それまで俺が宍戸と残るわ」

「くれぐれも他の人がいるところでは名前呼びで頼むよしんちゃん」

「せやから、しんちゃん呼びはやめや」


忍足、諦めろ。


「透」


呼ばれ慣れていない声のせいか、誰に呼ばれたんだか、一瞬わからなかった。


「……なんだ命」


呼び慣れてない名前。なんか調子狂う。


「純太も、ここに来てるかもしれない」


純太。あの時のチビか。


「……恨んでる?」


黙り込んだ俺の顔色を窺う命。
俺が車椅子生活を送ることになった経緯を思ってのことだろう。


「まさか。むしろ誇るべきだろ?」


チビが生きている。
その事実こそ、俺のあの時の行動の最大の意義であり功績だ。

俺が笑ってみせると、命も笑みを返す。


「俺が言うのもおかしいけど、ありがとう」

「おう」


踵を返し、命、アキ、日吉が出ていく。
命は扉を閉める間際に、もう一度振り返る。


「透をよろしく頼んだよ、金融コンビの片割れ」

「信士でええやろーっ!!」


ああ、うるせ。近くで叫ぶな。

金融コンビと呼ばれる相方の名は託人。
信士と託人の頭文字とって信託=金融である。



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