「それにしても源ちゃん、声大きいよ」
「誰だ!」
木の上から声が聞こえ、俺は上を見上げる。
太い枝に腰かけ、立海の制服を着た、女子のように瞳の大きい、おかっぱ頭の男子がいた。
「見下ろしてないで降りてこい。ハル」
「はい、っと」
男子は2メートルほどの高さから飛び降りた。
軽い身のこなしで手や膝を地に着けることなく着地する。
下を向いた時の細められた目と、その髪型が出会った頃の仲間を彷彿とさせる。
「蓮二、……に似ているな」
「ふうん、想定した以上に察しがいいみたいだね。データ更新、と」
メモは取らないのか?
「今、『メモは取らないのか?』とか考えていたでしょう」
「あ、ああ」
「まあ、記録するのは白桜の方で、俺は記憶する方だから」
ハルと呼ばれた男子は人差し指で己の頭をトントンッと小突いた。
「俺と白桜はプールとか見渡しの良いところだけ見てきて一旦戻ってきた。絶対に真守さんたちが暇で試合始めてると思ってね。でも、もっと楽しいことになってるじゃないか」
蓮二が笑う時より口角が上がっている。少し不気味だ。
俺の心情を知ってか知らずか、彼は笑みを潜めてテニスコートを指差す。
「白桜は既に中で試合のデータ取ってるよ」
「そうか、では俺たちも観察しよう」
そう言って歩き出した源喜は屋内テニスコートの入口と反対へ向かおうとしていた。
「源ちゃん、逆だよ」
「む、そうなのか?」
「そうなのだよ」
「……」
彼を決して一人にしてはならない。
ハルを先頭に入口へ向かう。
「しかし」
どうにも、解せないことがある。
「源喜」
「なんでしょうか」
「その髪の色はなんだ。たるんどる」
源喜はクワッと目を見開いた。
「これは地毛だ!!」
「す、すまん」
前を歩く男は振り返ることなく肩を震わせていた。
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