「長引くかもしれないからな、模擬店のチェックは神尾たちに任せた。しかし開場時間十分前までには終わらせよう」

「うっす」


「蒼也」


すぐに移動しようとした二人に、師匠が呼び止める。


「すみません。ちょっと待ってください」


蒼也と呼ばれたヘアバンドの男子が、師匠から何か耳打ちされる。

蒼也は一瞬目を見開いたが、笑みを浮かべて答えた。


「いいっすよ。気にしないでください。むしろさっさと帰れるなら帰ってやってください。俺ら模擬店ほったらかしで、他の部員に丸投げ状態になってそうっスから」

「……すまん」


蒼也はこちらに向き直った。


「お待たせしました。行きましょう、橘さん」


蒼也と橘は屋内テニスコートの方へと向かった。

二人を見送りながら、真田は模擬店のチェックが終わったら、少し二人の試合を見に行こうと考えていた。


「真田弦一郎さん」


残った師匠と呼ばれる男子が真田の名を呼んだ。


「少し、お時間を頂いてよろしいでしょうか」


男子はそう言って、被っていたキャップを外した。



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