「長引くかもしれないからな、模擬店のチェックは神尾たちに任せた。しかし開場時間十分前までには終わらせよう」
「うっす」
「蒼也」
すぐに移動しようとした二人に、師匠が呼び止める。
「すみません。ちょっと待ってください」
蒼也と呼ばれたヘアバンドの男子が、師匠から何か耳打ちされる。
蒼也は一瞬目を見開いたが、笑みを浮かべて答えた。
「いいっすよ。気にしないでください。むしろさっさと帰れるなら帰ってやってください。俺ら模擬店ほったらかしで、他の部員に丸投げ状態になってそうっスから」
「……すまん」
蒼也はこちらに向き直った。
「お待たせしました。行きましょう、橘さん」
蒼也と橘は屋内テニスコートの方へと向かった。
二人を見送りながら、真田は模擬店のチェックが終わったら、少し二人の試合を見に行こうと考えていた。
「真田弦一郎さん」
残った師匠と呼ばれる男子が真田の名を呼んだ。
「少し、お時間を頂いてよろしいでしょうか」
男子はそう言って、被っていたキャップを外した。- 3/6 - [*前] | [次#]