<個人視点なし>
朝早くに会場入りした彼らは思いもよらず出会した。
「早いな橘」
「真田こそ。開場までまだ二時間近くあるぞ」
「何か不測の事態があってはいけないと思ってな。模擬店のチェックも兼ねて早めに来たのだ」
「まあ、俺もそんなところだ。と言いつつも、お互い模擬店とは方向が違うようだが」
二人とも屋内テニスコートの方へ足は向かっている。
「考えることは同じ、か」
「日々練習を怠らないことは重要なことだ」
しかし今日はお互いラケットバッグを持っていないので、倉庫のラケットを借りるつもりらしい。
考えることは同じである。
テニスコートへ向かっていると、道沿いに樹が並び立つ曲がり角の向こうから、立海の制服を着た二人組が現れた。
背の低い方の男子は、髪は黒く真っ直ぐで、頭に水色のヘアバンドをしている。
背の高い方の男子の顔は隠れていて見えないが、深く被った紺のキャップから覗く髪は茶色い。
二人とも両腕に黒いリストバンドをつけている。
立海で黒いリストバンドと言えばテニス部のパワーリストが真っ先に思い浮かぶ。
真田はふと、テニス部にこのような者たちがいただろうか、と眉間の皺を深くした。
目を見開いている男子の腕を引き、自らの前に立たせたキャップの男子が、唐突に告げた。
「橘さん、コイツと試合をしてやってくれませんか?」
「え、師匠……?」
師匠、と呼んだキャップの男子を困惑の顔で見上げてから、ヘアバンドの男子は橘を見る。
目を逸らさず無言で見つめ合うこと十数秒。
橘は笑った。
「いいだろう。受けて立とう」
「っ……ありがとうございます!」
心なしかヘアバンドの男子の顔が赤い。
握りこぶしを作って小さくガッツポーズをする男子を前に、橘は携帯を取り出し、どうやらメールを打っているようだ。
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