結婚してから気づいたことがある。
結婚式より以前の写真で、私と金太郎のツーショット写真が一枚もなかったのである。
一緒に映っているのはあれど、二人きりではない。
それに気づいて以来、写真撮ってほしい状況になると周りの人に頼んだり、金太郎が誰かしらを連れてくるようになった。
「今回もそのために白石さん呼んだん?」
「何のために隣から呼び出したと思うてん?」
カーテン越しに隣のベッドからくすくすと笑い声が聴こえる。
白石さんの奥さんだ。
ここは産婦人科の病室。
白石さん家の赤ちゃんは昨晩に生まれ、今抱えているこの子はつい先刻、まだ日も上がってない時間に生まれたのだ。
「ほな二人とも、撮るで」
「二人やのうて三人や!」
「はいはい」
私が赤ちゃんを抱え、金太郎が私ごと赤ちゃんを抱きしめるような姿勢。
シャッター音とともにフラッシュ。
「あ、フラッシュいらんかったか?」
「ワイ目瞑ってしもうた〜」
「ほな、もう一回」
フラッシュを焚かずにもう一度。
カメラを渡され、画面で確認する。
「おっ、ええやん。おおきに白石!」
「うん。ありがとう白石さん」
「ほな、今度は家の家族写真撮ってもらうで」
「おん」
カメラを手にカーテンから出ていく二人。
しかし直ぐに金太郎が声を上げた。
「風花、見てや!」
「金ちゃん、病院で騒いだらあかん」
勢い良くカーテンを開いた金太郎。
白石さんの注意を無視して、金太郎が私を抱き上げる。所謂お姫様抱っこ。
窓際まで行き、外を見て息を飲んだ。
「な、きれいやろ」
昨日は珍しく一晩中雪が降った。
積もった汚れない雪が、朝日に照らされて金色に輝いている。
「ホンマに綺麗やな」
横に来た白石さんも頷く。
「私も見たいんやけど」と奥さんにせがまれてカーテンの向こうに戻ってった。
「キミにも見える?」
抱えていた赤ちゃんを見る。目は開いていない。
「金太郎。一旦ベッドに戻して。カメラで撮って」
「ワイが撮るん? でも風花の方が上手いやん」
「いいから我が子のために撮ってよパパ」
それに私は、金太郎が見てる世界が見たい。
「パ、パパ……!!」
「感動するのはいいけど、ほら早く」
「おん」
ベッドに降ろされて、カメラを手にする金太郎の背中を眺める。
なんか唸ってる。
「……よっしゃ」
満足いったらしい。
「ほい」と渡されたカメラ。画面に映る景色はやはり輝いている。
「キラキラ」
「せやな」
「ところでお二人さん」
隣から再び白石さん。
「その子の名前、決まっとるんか?」
顔を見合わせる私たち。私は赤ちゃんを見て、カメラを見た。
「……しろがね」
「しろがね? 銀のことか」
「ううん。白と金で白金」
「なんやめっちゃかっこええやん! よかったな白金!」
金太郎が白金の小さな手に指を添えると、その指を握り返される。
「気に入ったんか」
指を揺らす金太郎。本人はどうかわからないが、金太郎は嬉しそうだ。
この子も、どうか金太郎みたいなキラキラな人になりますように。