金太郎の背中には、爪痕がついていて、所々血が出ていた。
ゴムを捨てて、金太郎は私の横にごろんと転がる。
「大丈夫やったか? 怖なかったか?」
「ちょっと怖かったけど、ぎゅっとしてたから平気だった」
「ほうか」
「金太郎は、背中、痛くない?」
「このくらいどうってことないで」
「そっか」
次はちゃんと爪を切ろう。
金太郎が背中に腕を回して、私の、まだまだ小さい胸に頭を埋める。
「なあ風花」
「なん?」
「ワイ18で、風花は16やん」
「やな」
「ワイな、ずーっとな、風花のそばにおりたいんよ」
「うん」
頭が離れて、真っ直ぐ目を合わせる。
「ワイ、風花と結婚したい」
「……すぐに?」
「おん!」
「……」
思わず沈黙。よもや齢十六でプロポーズされるとは思わなかった。
「まだダメ」
「えー! なんでや!?」
不満げな金太郎。
「恋人と夫婦は違うの。卒業して、安定した収入を得て、安定した生活できるようになって、赤ちゃんを健やかに育てられる環境ができるまではダメ」
「むぅ……プロポーズフラれた」
私の髪を撫でつつも唇を尖らせる金太郎。
「……既成事実」
「結婚するまでえっちなこと禁止」
「それは堪忍!」
「ちゃんと避妊せんと許さん」
金太郎の頭に軽くチョップ。チョップした手を、彼の頬に添える。
「これは漫画の受け売りやけど、子どもは皆、幸せでなくちゃあかんの」
今度、その漫画を漫画好きな彼に貸そう。
「で、これは学校であった講演会の受け売り……金太郎も聴いてたはずやけど、夫婦は良き父、良き母になるための関係なんや」
「おん」
「私はな、子どもが幸せになるための環境が整ってから、赤ちゃん作るべきやと思うんよ」
「……おん」
互いに目を逸らさない。
「私もずーっと、そばにおりたいで。でもすぐに結婚せんでも、こうして一緒におれるやろ」
「……おん。わかった。ワイ頑張る。風花が卒業するまで我慢する」
「……」
私に進学の余地は無さそうだ。
まあ、いいか。ずっとそばにいられるなら、一生専業主婦でもいいや。
「金太郎」
「なん?」
「大好きやで」
「ワイは愛してるで」
「なんか似合わないよ」
「わかっとるけど、言うてみたかったんや」
「金太郎の大好きがええ。ねぇ、言うて」
互いのおでこをこつん…っと合わせる。鼻が触れ合う。
「大好きやで」
手を繋いで、指を絡めて、キスを交わす。
良き親がどんなものか、私は知らないけれど。
金太郎とならなれる気がする。