「ああ、うん。その彼氏と付き合ってた事実が悔しくってさ、彼氏と別れた日、公園のブランコで泣いてたの。そしたらそれ見かけた丸井ブラザースが心配して話しかけてくれて、まあいろいろ話してたらブン太が意外に家庭的な男子だと知りまして」

「意外には余計だ」

「それでさ、思ったわけですよ。料理上手で面倒見のいいブン太はいいお父さんになりそうだ、とね」

「いい彼氏、いい旦那すっ飛ばしていいお父さんかよ」

「弟くんたちも可愛いし、絶対ブン太の子どもも可愛いに決まってる」

「ホントに飛躍してんな。俺自身の気持ちとか無視かよ」

「無視だよ。将来的にブン太と結婚するわけじゃないって前提で話してるもん」


沈黙。なにこの気まずい空気。


「……なあ、なまえ」

「なにさ」

「俺ってば、いい男だろぃ?」

「なにさ今更。自分で言っちゃって」

「なあ、なまえ」

「なにさ」

「将来的に、そろそろ結婚しろっ時期が来ても、互いに恋人とか、相手がいなかったらさ」

「いなかったら?」

「そん時は結婚しねぇか?俺たち」


再び沈黙。


「なにその不確定なプロポーズ」

「保険ってやつ?」

「酷い男」

「でも『いいお父さん』なんだろぃ?」


心のどこかで乗り気な自分が悔しい。


「絶対、その時になったら彼女いるくせに。てかとっくに結婚してるくせに。期待させんな豚」

「もっと他に言いたいことがあるだろぃ?」

「なにさ思わせ振りなこと言っちゃって。あんたこそはっきりしなさいよ」

「…………」

「なにさ、急に黙り込んじゃって」


普段のブン太らしくなく、テニスしてる時みたいな真剣な顔になった。

「なまえ、俺と付き合って」

「はい!?」


頭に血が上りっぱなしで、思考回路はショート寸前。

キャパシティオーバーで涙腺が決壊したようだ。今にも零れそうなくらい視界を滲ませる涙。
泣き顔を見られまいと下を向く。

視界の端でブン太が腰を上げる。


「泣き顔、隠すんじゃねぇ。もっと見せろ」


顎に指を掛けられ、クイッと顔を上げさせられる。

夕日を背に、片手を机につけて私を上から覆い隠すように前屈みのブン太。
不敵に笑って、溢れた涙を舐めた。

視界の端をちらつく赤い舌に、このまま食べられるのでないかとさえ錯覚した。





実は公園での一件を見ていたらしい。
泣き顔に惚れるなんて、悪趣味め。


悔しいけど、元カレとは比べ物にならないくらい、いい男。


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