橘家に一晩お世話になってから、早数日が過ぎた日曜日。
何となしに思い立ったので、父の家に来ていた。


物事ついた時から母子家庭といっても、父親が誰なのかは知っているし、たまに家まで転がり込む。

父にとって私は可愛いが母は疎ましいらしい。母は養育費という名の金欲しさに親権を手放さない。

父の家までの交通費は毎回父から貰うし(母にバレたら取り上げられるし。距離もあるから滅多に来ないし)、携帯も父が買い与えてくれた(これも母には内緒。支払いも父)。

父は本来母親がくれるであろう以上の愛情を与えようとし、とにかく私を甘やかしたがる。
父曰く、私は「甘えることが苦手なのだから、甘えられる人が必要だ」とか。それは余計なお世話だ。


いつもなら在宅している誰かと他愛のない話をして帰るだけだ。
しかし今回いたのは父だけ。
そして今まで敢えて話すこともなかった、早朝橘に遭遇した日のことから先日の泊めてもらった日のことまでを話した。


「その橘くんは、梓に惚れたんだから、少なくとも人を見る目はあるようだ」


久々に転がり込んだ父の家のリビングのソファで、隣に座る父に頭を撫でられる。


「私、そんなにできた人間じゃない」

「おやおや、父さんには謙虚で慎ましやかで、ちょっと引っ込み思案なだけの可愛い女の子だと思うけど」

「母が強欲過ぎるんだ」

「そんなの比較するものではないよ。誰と比べるのでなく、そう思ったまでのこと」

「……」


父の肩に頭を預けたら、目を見開かれた。

見開いた目を細めて、頭を撫で続ける。


「梓が頼って、こうして寄りかかって、甘やかすことを許してくれるなら、いくらでも力になれるのに」

「許しが、必要なの?」

「梓は、どこか拒んでいる節があるだろう?」



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