橘家に足を踏み入れて、私を出迎えてくれたのは恐らく橘のお祖母さん。

お祖母さんが「お友達がいらしたよ」と奥にいるであろう誰かに伝えた。

呼ばれて現れたのは橘の妹さん。

「ゆっくりしてって」とお祖母さんは奥に戻っていく。
反対に妹さんが近づいてきて、お祖母さんに聞こえないように耳打ちした。


「『私の友達』ってことになってるから、先輩は気にしないでくださいね」


先輩と言われ慣れていなくて違和感。そうか。彼女は学校の後輩になるのか。



部屋に案内すると言われ手をとられたら、あまりに冷えきっていたのか、そのままお風呂場に押し込まれた。
ご丁寧に着替えまで用意して頂いた。

髪や身体を洗い、湯船に浸かる。
いつもはシャワーだけで素早く済ませていたから、温かい湯に浸かるのは久しぶりだ。

お湯の温かさが心地よく、橘の家族も暖かい。

湯船の中で、静かに泣いた。



嗚咽を殺して、しゃっくりだけが響く浴室。

突然、外から妹さんの悲鳴が聞こえた。


「杏どうした!?」

「お兄ちゃんジュースが大噴出したんだけど!!」


……ああ。あのペットボトルの中は炭酸飲料だったらしい。

ドタドタと慌ただしい足音が近づいてきて、脱衣場の戸の開閉音と衣擦れの音が聞こえる。

まさか。

涙を誤魔化す為にお湯を掬って顔に掛ける。


「ごめんなさいお邪魔しますっ!」


浴室に広がるジュース特有の甘ったるい匂い。

素っ裸の妹さんが浴室に飛び込んで来た。
私の顔には目もくれず、素早く蛇口を捻ってシャワーを浴びる妹さん。

あまりの勢いにびっくりしてしゃっくりも止まった。

妹さんが髪を洗っている間、その背中をぼんやりと眺めていた。



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