だって、家に帰ると虚しくなるから。

友達と一緒にいて、遊んで、どんなに楽しくて嬉しくて虚しさを埋めたって、家に帰ればこれが私の現実なんだと思い知らされる。


「その現状に甘んじる必要なんてないんだよ」


ぎゅっと抱き締められて、抵抗することもなく目を閉じる。

玄関の方から、ドアの開閉音と「ただいまー!」と小さな子特有の高い声が聞こえて、パタパタと足音が近づく。

抱き締められていた腕が離れる。


「あずさおねぇちゃんっ!」


小さな異母弟に飛びつかれてソファに沈む。苦しい。


父さんには父さんの家庭がある。


私には異母兄もいる。
しかし私が生まれた時点では、まだ父さんは結婚していなかったらしい。

母に目をつけられた父さんは運が悪かったと思うけど、目をつけられる隙があった父さんも父さんだ。


「ひさしぶりおねぇちゃん。きょうはおとまりなの?」

「ごめんね。明日学校だから、もう帰らなきゃならないの」

「ええ〜」


不満で膨らんだ弟の頬を押すと萎んだ。
唇を尖らす弟の頭を撫でる。

父を振り返ると、いつの間にか隣からいなくなっていた。
辺りを見回すと、入口で奥さんと一緒に私たちを微笑ましそうに眺めていた。


「頼りが必要ならいつでも言うんだよ」

「私たちは家族だから、いつでも歓迎するわ」


「橘くんがいるから、もう頼ってくれないのかな?」と茶化す父に、顔を隠すように俯いて、脇腹に軽く一発いれてから家を出た。





『家族』の暖かさは心地よい。
でもそれは『私の家庭』にはないものだ。

『私の家庭』の中に、そんな『家族』はいない。





涙腺が弛くなったな私。

今にも溢れそうなほどの涙を目に溜めて、夕焼け空を睨んだ。



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