「修学旅行の時、いなかっただろう? 説明会や話し合いには参加していたが」
去年の修学旅行。
私には、はじめから参加できないことがわかっていた。
「病気などでキャンセルしたのかと思っていたが、元々費用の支払いができないから行かないことになっていたと、先生たちが話していたのを耳にしてな」
そう。支払いができない。正確に言えば母に支払う気がなかったから。
多分、毎月の養育費とは別に修学旅行費用は受け取られたと思うけれど。
説明会の出席などは、参加できないことを悟られないようにするための、先生たちなりの配慮だった。
「3年に上がってクラスが変わってからは、大分忘れていたんだがな」
髪を拭う手が止まり、あてられていたタオルを取り払われる。
「あの日、明け方にお前と出くわした。それだけでも驚いたが、頬が腫れていたことの方が驚いた」
私にはあの時の橘は冷静そうに見えた。
「俺は動転していたのだろうな。去ろうとするお前の腕を咄嗟に掴んだが、その冷たさで、問い質すことよりもこれ以上身体が冷えてはいけないと、自分の学ランを羽織らせていた」
橘の指が髪の間に差し込まれ、私の頭を撫でるように髪を鋤く。
とてもケアする余裕もなく荒れ放題の私の髪は、ただでさえ指通りが悪い。
櫛で鋤いてもいなければ乾いてもいない今の状態は言うまでもない。
「学ラン、返しに来てくれた時にでも話せたらと思ったが、直接会うことはなかったからな」
「今更だけど、学ラン、ありがとう」
「どういたしまして」
不意に橘の手が離れた。
時折、何本が引っ張られている感じがするので、どうやら絡まった部分をほどいているようだ。
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