「夕飯でも食べていくといい。その後のことはそれから考えよう」

「橘!?」

「なに、もともと後輩たちを誘っていたのだから、一人増えたって問題ない」

「そういう問題じゃなくて!」

「『傍にいてくれないか?』と言ったのは、桜木だろう?」

「確かに、私だが、」

「惚れた女の初めての頼みだ。こちらとしても嬉しい願いを叶えてやりたくない男など、少なくとも今、ここにはいない」


橘としても、嬉しいのか。

寒さのせいで元から赤いだろう顔に熱が集まる。
私の口は言い返すことを止めた。

手を引っぱられているのが嫌で、駆け足で彼の隣に追いつく。

逃げないとわかってか、橘は私の歩幅に合わせて歩く速度を落とした。
こういう些細なことも自然と気が利いてる。


「夕飯が済んだら、できれば桜木のことを教えてほしい」


私のことで、話せることは何だろうか。

『梓が頼って、こうして寄りかかって、甘やかすことを許してくれるなら、いくらでも力になれるのに』

『梓は、どこか拒んでいる節があるだろう?』

頼っていいのだろうか。甘えていいのだろうか。
私のことを話したことによって彼に迷惑をかけないだろうか。
どのようなことならば、彼に迷惑をかけず、彼は喜ぶのだろうか。


「橘」

「なんだ?」

「私にも、橘のことを教えてくれないか?」

「ああ」


橘の横顔を見上げれば、同時に彼はこちらに顔を向けて微笑んでいた。


「俺は健康的な人が好みだ。もう少し肉付き良くした方がいい」


確かに橘のことを教えてくれとは言った。
だが橘、一言余計なお世話だ。



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