様子がおかしい。

私より前に転校してきたクラスメイト、天城瑠依ちゃん。

同じ転校生同士、自然と仲良くなれた。と思うのだが。


「(……無視ではないよね)」


明らかに不自然だった。

授業中、消しゴムを忘れた私は、毎度の如く前の席に座る瑠依ちゃんの背中をつついた。

因みに今回で五回目だ。

消しゴムを少しの間、貸してもらおうと思ったのだが、何故か瑠依ちゃんが振り向かない。
それどころが反応がない。

もう一回つついてみる。でも反応がない。

結局、授業が終わるまで瑠依ちゃんがこちらを振り向くことはなかった。
なのに、授業終了のチャイムが鳴った途端、瑠依ちゃんがいつものように振り向いたのだ。


「……? どうしたのなまえちゃん」


思わず面食らった顔で固まってしまったらしい。


「あ、瑠依ちゃん……」


授業中に背中をつついていたの、気づいてた?


「……なんでもない」


訊こうとして止めた。
今の瑠依ちゃんがあまりにもいつも通りだったから。






放課後、瑠依ちゃんが顔面からスッ転ぶ場面に遭遇してしまった。

月に一、二回は転んでいるかもしれない。あまり珍しいとは思わなくなった。
転ぶ際に地についた手が意味を為さないのも、彼女にはよくあることだ。

むくり、と起き上がった彼女は、いつもなら怪我をしたら傷口に触れたり、絆創膏を出したりする。

しかし今日は、頬に傷ができているにも関わらず、彼女は何事もなかったかのように歩き出した。

慌てて彼女の隣まで行き、歩きながら声をかける。


「瑠依ちゃん、どうしたの?」
「あ、なまえちゃん。どうしたのって、何が?」
「だって、血が出てる。痛くないの?」
「えっ」

どこを怪我したのか探るように、顔を所々触れる。
ようやく手に血が付着した場所を見つけたが、正確にはわかっていないようで、再び指先を当てた位置は少しずれていた。


「どこを怪我したか、わからないの?」


というより。


「どこに触れているか、わからないの?」


彼女が目を見開いて固まる。

しばしそのままで、彼女は突然踵を返し駆け出した。

私には、逃げるように走っていく彼女が、このまま保健室に行くとは思えなかった。

女の子の顔に傷なんて一大事というのに。

私は急いで瑠依ちゃんの後を追った。



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