「はじめまして、みょうじなまえです。皆さん中途半端な時期に転入してきたなと思われていることでしょう。私も夏休みに余裕を持って手続きと試験と引っ越しをし、二学期から通いたかったのですが、今月から両親が海外赴任のため、先月中にバタバタと手続き等をして今月から通うことになりました。いつ両親が帰ってくるかわかりませんが、できれば高校三年間も仲良くして頂きたいです。よろしくお願いします」
マシンガンの如く矢継ぎ早に言い切った。我ながらよく口の回ったことだ。よく咬むのに。
席について、授業受けて、最初の休憩時間はやはり女子が私の席に集まってきた。
早速友達もできた。しかし私は一方的に質問を受けるばかり。
「ねえ」
私はクラスの中で一際目立つ二人組を指差した。
仁王雅治と丸井ブン太である。
彼ら二人について、ずっと気になっていたことがあった。
「あのおめでたい色の二人は、地毛なの?」
「ぶはっ」
ぶはっ、なんて漫画みたいな吹き出し方初めて見たよ。
「あはは、本人訊いてみなよ」
「私チキンだから無理です(笑)。とりあえず縁起良さそうなついでに拝んどくよ」
「へ?」
彼らは会話中で私達の方を見ていない。
私は彼らに向かって手を合わせた。
「さよならキューティクルよ。どうか安らかに」
「ブフッ」
ウケたぞ。ではもう一発。
今度は二回、柏手を叩いてから。
「どうか、将来禿げませんように」
「…………」
あれ? 今度は反応がないぞ。
手を合わせ頭を下げたまま、横目で彼女たちを見ると、私の前方を見て固まっていた。
ガタッ、と足元に見える椅子の脚が擦れ、誰かの爪先が視界に入る。
私は恐る恐る顔を上げた。
「禿げませんように、とは、どっちのことじゃ」
「そりゃお前だろぃ」
ご本人たちがいた。
ぶっちゃけ本心だから言い逃れする気はない。こうなったら自棄だ。
「二人は地毛ですか?」
二人も固まった。丸いブタさんは呆れ顔で見返してくる。
仁王雅治は笑みを浮かべた。
「そうじゃ、と言ったら」
「本当に?」
表情は変わらない。
「本当に?」
私は立ち上がった。反応が返ってこない。
「本当に?」
一歩踏み出して、真っ直ぐに彼の目を見る。彼の瞳が微かに揺れる。
「本当に?」
一歩踏み出し、距離を縮める。彼の額にうっすら汗が出ている。
とうとう彼の笑みが崩れて顔を背けた。
「そんな目で、俺を見ないでくんしゃい」
勝った。何に対してかはわからないが、勝ったと思った。
仁王が一歩下がって距離ができる。
「にらめっこは終わりかよぃ」
「ブンちゃんうるさいぜよ」
そう、私はにらめっこで詐欺師に勝ったのだ。
「俺は丸井ブン太。シクヨロ」
「丸いブタ?」
ベタにボケてみる。
そうだ、今まではまだ名前聞いてなかったんだ。危なかった。このまま名乗られなかったら、うっかり知らないはずの名前呼ぶところだった。
二人の肩が震えてる。理由は違うが。
「ブ・ン・太・だ!」
「ああ、ごめん。だからブンちゃんなんだね、ブ・ン・ちゃん」
「おい仁王、お前のせいで変な呼び方されてるじゃねーの」
「丸いブタよりはましじゃろ?」
やっと笑いが治まったようで、仁王が再びこちらを見た。
「俺は仁王雅治。まあ覚えときんしゃい」
「そうだね、もう忘れないよ。毛根お大事に」
ピクリと仁王の顔がひきつり、丸井は笑った。
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