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本当に、誰もがのうのうと生きてやがる。
レギュラーは瑠依ちゃんを信じていたのだし、レギュラー以外の誰もが忘れてしまったなら、証明する必要がなくなったことになる。
行き場のない怒り。
悔しい。
瑠依ちゃんは今でも覚えていて、苦しんでいるのに。
砂時計の砂が落ちきって、カップに注がれる。
ようやくこちらを向いた彼は、両手に持つカップの乗ったソーサーの片方を、私の前に置く。
何故か、ふと、とりとめもない疑問が思い浮かんだ。
「ねぇ、滝、訊いていい?」
「なに?」
もう片方のカップもテーブルに置かれる。
「滝にも、彼女いるの? 嫌がらせ受けてるの?」
ソーサーから手を離すことなく屈んだまま、顔を上げることなく滝は困ったように笑んだ。
ただ思い浮かんだことをなんとなく口にしたつもりだった。
なのに、彼は泣きそうに微笑むから、とても申し訳なく思う。
「俺も、忍足のこととやかく言える立場じゃないんだ」
ああ、いたんだ。
それ以上、何も言葉にする必要はないと思った。
滝は向かい側にあるソファではなく、私の隣に座る。
「みょうじ、肩借りていい?」
「どうぞ」
「ありがとう……」
肩に乗る頭。
紙の上の彼らとは違う。重みがあって、暖かい。
そりゃそうだよね。
彼らは彼らの現実を生きてるんだよね。
紙の上で描かれているだけが、彼らのすべてじゃない。
語られないところで、ありふれた学校生活を送って、その中で笑い、泣き、楽しみ、悲しみ、喜び、苦しんで、……恋をして。
人間技じゃないテニスをしていたって、彼らは人間で、まだ中学生なんだ。
サラサラの髪を鋤くように頭を撫でる。
一粒の雫が降ってきて、膝を濡らした。
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