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「私、今日の授業中、消しゴム借りようと思って瑠依ちゃんの背中つついてたんだけどさ。気づいてた?」
逃げる瑠依ちゃんをなんとか捕まえて、連行した保健室。
椅子に座らせて向かい合い、濡らしたハンカチで瑠依ちゃんの頬を拭いながら話す。
「…………ごめん」
やっぱり気づいてなかった。
ハンカチを置いて、湿潤治療の絆創膏を貼る。
こんな絆創膏も保健室に備えてるなんて、さすが立海。
「あと、この傷。痛いと思う?」
首を横に振られる。
「これは痛い?」
彼女の手を取り、甲を軽くつねる。
また首を横に振られる。
まるで触覚、そのうちの特に痛覚が麻痺してるみたいだ。
「いつから感じなくなったの?」
「昨日から、かな」
「なんで、何が理由なのか、わかってるなら、訊いてもいいかな……?」
何故かすんなり言葉が出てこなかった。
心拍数が上がってる。
知りたいけど、知るのが怖い気もする。
沈黙が長く感じた。
「なまえちゃんなら、いいよ」
瑠依ちゃんは瞼を閉じ、深く息を吸った。それをゆっくり吐いて、目を開けた。
「痛覚は、小学校卒業する頃からほとんど感じなくなったの。あと、自分の手で触れている感触はわかるの。でもそれ以外の場所だと、時々、今日みたいに触れたり、触れられたりしてもわからないことがあるの」
瑠依ちゃん自分の右腕を握る。
違和感。しかしその正体がわからない。
「なまえちゃん、氷帝の丸眼鏡……忍足侑士を知ってるんだよね」
「え、うん」
何故に忍足の名が出てくるのだろう。
「私ね、立海に来る前、氷帝に通ってたの」
「だから知り合い?」
「知り合い……というか、付き合ってたの」
「え、ええっ!?」
勿体無い。忍足なんかに勿体無い。
あれ? 『付き合ってた』?
一気に頭が平静さを取り戻す。
「私ね、テニス部のマネージャーをしてたの。正レギュラー担当のね」
確か、氷帝のマネージャーは正レギュラー担当と平部員担当がいるんだっけ。
「2年の終わり頃に、転校生が来たの。その子もテニス部のマネージャーになったの。マネージャーになったばかりの子は平部員担当になるのが当たり前だったんだけど。その子は当時から、今のレギュラーの人たちにばかり接してきたの」
今のレギュラー。当時からレギュラーだった人も、そうでない人もいる中で、その転校生は彼らを選んだ。
「まるでレギュラーになるのを知っていたみたいで、正直気味が悪かった」
「実力ある人を見抜いたってこと? それで気味が悪いって……」
「違うの。それだけじゃないし、多分見抜いた訳じゃないと思う」
首を傾げる。
「レギュラーになる人たちだけじゃない。彼女は知らない、誰にもわからないはずのことを、彼女は知ってるような言動をすることが多かったの。今のレギュラーのプロフィールとか、他校のテニス部員との交友関係とか、今年の大会の試合がどんな風になるか、とか」
私は確信した。
その転校生はトリッパーだ。
もしかしたら転生とかもあり得るかもしれないけれど、今は仮にトリップだとしよう。
大会の試合の詳細を私は知らないが、それ以外の今年のレギュラーたちのことなら私の知ってる情報の範囲と同じだ。
原作知識のあるトリッパーのようだ。
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