他人から必要とされることには慣れていた。女っていうものはどうしたって寂しがり屋で欲張りで理論の通じない生き物だ。街でたまたま知り合ったコイツが、何の関わりもない見ず知らずの俺に一定の間隔で連絡をとってくるのも、いつも特別なことはせずにただただ抱き着いて同じベッドに眠るだけなのも、その女特有の寂しさから来るものだと勝手に結論を出していた。今日もコイツからのメールで夜の11時に呼び出されて、だだっ広い部屋にぽつんと置かれた物寂しいベッドに二人で倒れ込む。栗毛のウェーブがかった長い髪が頬を擽るが、嫌な気はしない。初めて会ったときから思っていた、コイツは最愛にして唯一無二の妹、陽毬の面影を持つ。


「冠葉、突然ごめんね」
「少しでも俺に悪いと思ってんならやめろ」
「…ふふ、じゃあ謝らない。罪悪感はそりゃあ少しはあるけど…わたし、やめられないもん」
「へーへー」


雑な返事を返すと、頬をぷっくり膨らませて俺の首筋に頭を擦り寄せてくる。鼻腔を擽るのは俺の家で使っているような薬局の安っぽいシャンプーとは程遠い、高貴で優雅な花の匂いだ。不快感はないが、それと同じくらい性的興奮もない。つくづく不思議な女だった。きめ細かい滑らかな肌も、肉付きのいい柔らかそうな二の腕も、足首は細いのに程よくむちっとした太腿も、普段なら好ましいそれらには全くそそられない。ただ時々、たとえばこんな風に俺のTシャツの裾をぎゅっと握り締められたりすると、どうしようもない庇護欲が込み上げてくる。そんなときは、華奢な背中に腕を回してこちらからも掻き抱いてやるのだ。コイツとの逢瀬は、どこか家族と過ごす時間に似ている。生温くて自然で居心地がいいのに、いつだって吐き気を催す窒息と隣り合わせだ。


「冠葉、冠葉」
「なんだよ…もう寝ろって」
「わたし、冠葉がいるから寂しくないけど、冠葉がいなくても多分平気なんだと思う。そのことに気付きたくないだけで。いまの距離感が心地良くって」


突然真剣な声音で話し出したかと思えば、要領を得ない話に溜め息が口を出る。まともな会話らしい会話をしたことがないせいもあって、コイツを電波だと思っていた俺の予想は強ち外れていないらしい。そうか、それで?そろそろ眠気も回ってきていた俺は、欠伸を噛み殺しつつ相槌を打つ。言いたいことを言い終わるまで、コイツは頑として寝ない。


「きっと、冠葉も同じだと思う。冠葉が否定しても、わたしはそう信じてる。だから、このままでいてね。どっちかのものになったり、なにかに邪魔されたりしないように」
「……おい、」
「ずっと、ずっと…だよ…」


すーすーと規則正しい寝息が聞こえ出して、相変わらず寝付きのいいヤツ、とちょっと噴き出した。俺にしがみついた腕から左手だけを取り出して小さな頭を撫でてやると、猫のように身動ぎして幸せそうな吐息を漏らす。甘えてるのは、どっちだっての。明日の朝、ローテーブルの上の茶封筒は無視して帰ろう。俺たちはどちらかが与えているのでも奪っているのでもない。造り上げた楽園で、分かち合って生きている。


20110922//
共依存の安息



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