「あれ?浜野君それだけですか?」
「ん?あーまあ、な」
「いつもの半分じゃね、そんなんで午後から持つのかよ」
「いーんだって!ほら食う!」


それぞれの前に食事が運ばれてきたときの会話を思い返す。いつも二人前はぺろりとたいらげる浜野は焼き魚定食しか頼んでいないようで、速水と二人首を捻っていた。話もそこそこに食べ進めていたところ、浜野の幼馴染みの動きが野菜たっぷりのドリアを半分まで食べた辺りでぴたりと止まる。じっとスプーンの上のブロッコリーを見つめる姿はかなり異様だ。心配した速水が声を掛けようとするのを、浜野が目線で制する。


「もうギブ?」
「んん、ちょい苦しい…。海士あとはお願いしていい?」
「りょーかい。相変わらず食細ぇなあ」


食い終わった定食を横に退けて、浜野はドリアの器を前に持ってくる。ブロッコリーはそのまま浜野の大口に吸い込まれていった。その流れの自然さから推察するに、いつものことなのだろう。普段は魚ばかりで野菜を食べようとしないし、ガキ臭いからきっと好き嫌いが多いと勝手に思っていた浜野が、色とりどりの野菜を平気で食す光景はなかなかに意外だ。速水も同じことを考えたのか、「野菜食べられるんですね…」と驚愕の声を出した。いやいや、いくら浜野相手でも失礼だろうが。


「コイツ昔からこんな感じでさ〜胃小さくて食べきれないくせに、残すのは死んでもやだっつうから俺が食ってやってたんだよ。だから嫌いなモノとかねーし!」
「へぇ、意外ですね…」
「最初から量少なくしてもらっとけばいんじゃね?」
「ん〜、なんちゅーかコイツが好きなモン好きなだけ食えりゃあ俺はそれでいいんだよな〜別に俺は困らねーし」
「海士のそういうとこ、ほんと好き」


いつの間に持って来たのか食後のコーヒーを啜りながら、浜野の幼馴染みはふわりと微笑む。刺々しさもいやらしさも全く存在しない、純粋であたたかい「好き」だった。心臓らへんがちくりと痛んだ。おい俺、これは一体どういうことだよ。


「さ、第2ラウンド始めますか。海士は数学ね」
「げー!俺数学嫌いだわー」
「倉間君は数学得意ですよね」
「ばっ…!はやっ…おま…!」
「そうなの?じゃあ数学は倉間君、お願いね」


斜め前から送られるきらきら期待の篭った眼差しに、頬が自然と熱くなる。誤魔化すようにぶっきらぼうに「しょーがねぇな」と返したけれど、幼馴染みはにっこり笑いかけてきた。慌てて数学の問題集を広げて、視線から逃れる。ちらりと横目で確認すると、既に浜野にかかりっきりになっていた。ちくしょー、心臓がうるさい。


結局その日は日が暮れるまで四人で勉強し、別れの際は浜野に送られる幼馴染みに無理やりに手を振らされた。傍らの速水が終始何か言いたげにこちらをジト目で見ていたが、敢えて無視させてもらった。明日のテストがそこまで嫌じゃないなんて、変だな、俺。



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