「倉間君はわたしの助けなんか要らないみたいだし、三人でがんばろうね」という嫌味ったらしい文言から始まった勉強会。


「なーなー動脈と静脈ってどうやって区別すんの?」
「海士、理科は速水君に」
「えー!また俺ですかぁ?」
「だってわたし理論とかあんまりわかってないし」
「わかってなくても覚えてるんでしょう?それを教えてあげればいい話なんじゃ…」
「海士がわたしと同じやり方で覚えられるとは到底思えない」
「俺もそう思う〜!」
「「いばるな!」」


和気藹々とテスト勉強を進める三人と、やりづらい空気の中黙々と問題集を解き続ける俺。こんな気まずいならいっそ帰ってしまおうかと思ったが、親に昼飯は要らないと言って出てきてしまったし、注文したドリンクバーが勿体ない。仕方なしに、テスト範囲のプリントを再び眺めた。明日の科目は得意なものばかりだが、最後に国語がある。浜野には当たり前のようにバレていたが、俺は古典がてんで出来ない。昔のやつらはどうしてああも回りくどい言葉を平気で遣っていたのだろう。まどろっこしくて、ついていけない。中学のテストなんてほぼ問題集のまんま出題されるんだから、とりあえず丸暗記しちゃえばいいのに、とは浜野の幼馴染みの主張だが、それができる脳なら最初からやっているし、ちょっと問題を改変されたら終わりなのであまりにも危険な策だ。だから理論をしっかり理解して問題を解こうと試み続けているのだが。


「(チッ…なんだよ…晴れならずといふことぞなき、って…)」
「あー腹減ったー」
「いい時間だしお昼にしよっか。何奢ってもらおうかな」
「あ、五百円以内な」
「えぇ〜ケチ!」
「(ず、が打ち消しだろ…なき、なき…なし、か…じゃあこれも打ち消しで…あれ、ぞ、って何だ?)」
「速水君も何か食べるでしょ?はい、メニュー!その…倉間君も」
「あ…どうも…倉間君、お昼食べましょう?」


あーマジわかんねえ!頭を抱えるような真似はしないが、シャーペンの先で無意味に問題を突いて何とか苛々を抑えようとしていると、ひゅっと真っ白い腕が斜め前から伸びてくる。呆気にとられているうちに、すらすらと簡単な解説が書かれていった。


「現代語に直訳すると、晴れがましくないということはない。二重否定は強い肯定になるから、すっきりさせるなら、非常に晴れがましい。って感じ。『ぞ』は係助詞だから文末の『なし』は係り結びの法則で『なき』になってるの。意味は強意だから、ここでは訳出する必要はないよね」
「………」
「あれ?わかんなかった?」
「…なんで…」
「なんでそうなるのか、って?んーどこから説明したら」
「じゃなくて!…俺には教えねーんじゃなかったか?」


戸惑いがちに返すと、浜野の幼馴染みはきょとんと目を丸めた後、おかしそうに笑った。


「だって、倉間君が一旦勉強終わらないと、みんなでお昼食べられないし」
「な…」
「それにさっきは少し意地張って大人げなかったなーって反省してんの。ごめん。午後からは一緒にやろうよ」
「別に、いーけど」


あまりにも素直に謝るから、逆にこちらが萎縮してしまう。全く似ていない幼馴染みだったが、このあっけらかんとした性格は通じるものがあるかもしれない、と密かに思った。渡されたメニューから、適当に選び、速水に注文を任せる。昼ご飯に浮かれている彼女の明るい笑顔は朝のむっつりした表情とはまるで異なり、不覚にもどきりとした。



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