「…海士、どーゆーこと?」
「ちゅーことでさ、コイツ俺の幼馴染み!よろしくな!」


さんさんと輝く真夏の太陽より眩しい浜野の笑顔に、俺と速水は顔を見合わせた。場所は学校近くのファミレス。時はテスト前の日曜日。浜野の隣には見覚えのない同い年くらいの女子が居心地悪そうに、機嫌も著しく悪そうに、頬杖をついて座っている。色素の薄い髪はくるくる巻かれているし、気の強そうな吊り目は瞬きする度に睫毛がばさばさ揺れるし、日焼けを知らない肌とあいまって、俺たちとは全く違う世界に住んでいるとしか言いようがない。正面の速水は既に彼女の剣幕に泣きそうになって俯いていた。浜野の幼馴染みという単語にハッとなって彼女と浜野を交互にチラ見するが、人間であること以外の共通点は見出だせそうにもない。健全な男子中学生の視点から可愛いか可愛くないかで言えば、そりゃ、まあ可愛い方だ。だがテスト前という比較的緊張感のある場面で、こんなシチュエーションで出逢ってしまえば、そんなことどうでもいい情報であった。


「バカイジ!わたしが質問してんの。わたしはアンタがどうしても勉強教えてくれって言うから、お昼奢りを条件に引き受けたのよ?」
「?そうだろ?だから好きなモン頼めって!遠慮は要らねーぞ」
「じゃなくて!こいつらは何なのって訊いてるの!」
「部活の友達!こっちが倉間で、そっちが速水」
「アンタとの関係とか名前訊いてるわけじゃないっつーの!」
「すみません…俺がサッカー部で速水でごめんなさい…」
「は?何でアンタが謝るの」
「ひいぃぃぃ」


浜野の幼馴染みは俺と速水をじろりと睨んで声を荒げる。早くもネガティブ炸裂してる速水と違って、俺は彼女の不遜な態度にだいぶ腹が立ってきた。いきなり呼び出されたのは俺たちだって同じだ。朝突然浜野から「ちーす!どうせテストやばいんだろ?一緒に勉強しようぜ〜!」と電話で捲し立てられたのだ。ヤバいのはあくまでも浜野であって、俺は古典だとか一部の教科に赤点の気配があるだけだし、速水はそれなりに成績が良い。伊達に眼鏡ではないのだ。つまり俺たちは友情から勉強会に付き合っているし、コイツに偉そうにされる筋合いもないわけで。大体この女、見るからに頭悪そうじゃねーか。ケバいとまではいかないが、遊びに夢中で勉強なんかしてない風に見える。


「はー…幼馴染みさんとやらは浜野に付きっきりで勉強教えてればいいだろ。俺たちは勝手にやってっから」
「なんだ強がんなよ倉間〜お前古典出来ないだろ?」
「お前ほどじゃねーし。大体こんな頭軽そうなヤツに教わることもないしな」
「…は?」


あからさまに鼻で笑うと、幼馴染みは眉をぴくりと顰めた。速水が横で顔を真っ青にさせてはらはらしてるのを無視して、思い切り睨み返してやった。そのままの状態で数秒が過ぎて、永遠に続くかと思われた睨み合いは相手がふいに逸らしたことで呆気なく終わった。彼女は傍らの鞄(リボンをつけたやけにデカイ熊がぶら下がっている)から教科書と参考書と筆箱を取り出して、にっこりと速水に微笑みかける。


「速水君、だっけ?わかんないなとこあったら何でも訊いてね」
「あ…ありがとうございます…」
「なんで敬語なの?同い年でしょー?タメでいいよ」
「いえ、これはもう癖みたいなものなので…」
「へーしっかりしてるねぇ。海士も見習いなさいよ」
「おっまえは母ちゃんかよ〜」
「何でも結構。幼馴染みが補習とかおばさんに顔向けできないし、やるからには本気でやるわよ」
「は、は…頼もしいですね…」


いつの間にか置いてけぼりになっていた俺は、隣の速水の脇腹をこっそり突く。速水は意外と幼馴染みが怖くなくてやっと落ち着いたのか、幾分か冷静な口調で、俺を諭すように息を漏らした。


「浜野君の幼馴染み、入学以来ずっと学年二位ですよ」


知るかよ、そんなの。



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