いつもならばここで叱責の声を張り上げる筈のコナツだが、湧き上がる己の激情を抑えるのに必死でそれどころではない。
現在進行形でテイトに甘い言葉を囁くヒュウガの視線は、つい先日まで自分に向いていた筈なのだ。

『コナツの目は綺麗だね』

そうやって、睦言のような言葉を紡いだ口で、同じことを彼は別の誰かに向けて語りかけるのだ。
宝石のような深い翡翠の瞳に対し、透き通ってはいるがくすんだオレンジの瞳。コナツはテイトの瞳をちらりと一瞥してから、自嘲のような笑みをこぼした。


――勝ち目なんて、最初から無い。

『オレはその色好きだよ』

ヒュウガの言葉が霞む。愛情に溢れていた筈のその言葉は、まるで薄い膜を隔てたかのように現実味を失っていった。

ヒュウガは、綺麗な物が好きだ。
平素からそう公言するヒュウガに、コナツは言葉の端々から感じる子供のような残酷さを常に感じていた。彼にとっては、どんなに気に入っていたものでも“飽きたらポイ”で終わるものであり、すぐに新しい物へと関心は移っていく。

「少佐、こちらの書類にサインをお願いします」
「えー……こんなに?」

目の前で子供のように文句を垂れるヒュウガの姿を見ながら、コナツはここ暫く感じていなかった焦燥が心の中で肥大していくのを感じた。

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