追跡調査 ある日、ロールの寝床が荒らされていた。 応接室の一角にふわふわしたクッション素材の真っ白なロール専用ベッドには、雑草やら細い木の枝などが散らばっている。 始めに発見したのは、おねむなロールを抱いてやってきた風紀委員の草壁だ。 「誰がこんなことを…」 「クピ…?ピイイィー!」 草壁の声で寝ぼけ眼を片目だけ開いたロールは、自分のベッドの惨状に声を上げた。 誰か知らないが、委員長に見つかったら咬み殺されるぞ。 胸の内でため息をついた草壁がベッドを片付けようとしたとき、一通のメモを見つけた。 ――おくじょへこい。 文章のはじめの「お」の上には、鳥の足跡。 「まさか、ヒバードの?」 そういえば朝からヒバードの姿を見ていない。いつもなら校歌を軽快に歌い上げながら空中散歩を楽しんでいる時間なのに。 雲雀に知らせるべきか草壁は迷った。 まだヒバードが誘拐されたと決まった訳じゃない。事を荒立てるのは早計だと思い直し、とにかくこのメモが示す場所へ向かうことにした。 「キュピー!」 「ロールも一緒にくるか?」 「キュウ」 自分の寝床を荒らした犯人を捕まえるため、ロール探偵と草壁助手は置き手紙に記された屋上へ急行した。 * 「ちっ。やっと来たな。おっせーよ」 「獄寺隼人。お前か、変な手紙を寄越したのは」 屋上にはタバコを口に加えた銀髪の少年がいた。 草壁とロールが近付くと、彼はスラックスの後ろポケットからなにかを取り出す。 「ホレ。頼まれもんだ」 「なんだ…また手紙か?お前がロールのベッドに手紙を置いたんじゃないのか」 「はぁ?んなことするかっつーの。俺はハリネズミが来たらこれを渡すように、10代目から言付かっただけだ」 確かに、獄寺にはロールのベッドを荒らす理由が見当たらない。 しかも沢田からの手紙? 頭をかしげながら開いた紙には、「たんていロール、きょうしつでまつ」と書かれていた。 「たん」のうえには、またしても鳥の足跡が2つ。 「じゃあな」 「待て!これは沢田の仕業なのか?」 「知らねぇな。10代目なら教室にいらっしゃるから直接聞いてみれば」 手紙の教室とは、沢田のいる2-Aということだろうか。 訳も分からぬまま、草壁とロールは次に沢田がいる教室へ向かった。 * 2-Aにいたのはやはり沢田綱吉だった。 「草壁さん。よかった、ロールを連れてきてくれたんですね」 「どういうことなんだ」 草壁に気づいた沢田はニコニコ人のよさそうな笑みを浮かべて、草壁とロールに近付くと手紙を差し出す。 「じょうぶなからだ、つくるばしょ」 やはり「じょう」の上に、それぞれ鳥の足跡が振られている。 「じゃ、俺はこれで」 「待て!いい加減にしないか、この手紙は一体…」 草壁は役目を終えてさっさと帰ろうとする沢田の肩をつかむ。 きょとん、とロールたちを見つめた沢田は彼らへ笑いかけた。 「ある筋から協力してほしいと頼まれたんです。俺も詳しいことは知りません。手紙を辿っていけば最後に送り主と会えるはずですよ」 「そいつが犯人なんだな」 「ロール探偵に見つけてほしいそうです」 ちなみに次はボクシング部ですよ、と沢田から場所を教えてもらい、草壁は踵を返した。 とにかく手紙を辿るしか、犯人に繋がる道はない。 * 「びじゅつしつにいけ」 ボクシング部主将の笹川了平から預かった手紙の頭文字には、1つだけ足跡があった。 「どこまで続くんだ…」 「キュウ…」 「犯人は極限許せんな!いたいけなロールの寝床を荒らすなど、人のすることではなーい!」 笹川了平はロールの小さな両手を掴み、「極限力になるぞ!」と瞳を燃えたぎらせた。ロールは了平が怖いのか固まってしまっている。 どうやら彼も実行犯を知らないらしい。 草壁はどこまで付き合わされるのか不安を感じながら、今度は美術室へ向かった。 * ロールと草壁は手紙が場所を指し示すままに学校じゅうを歩き回った。 さすがにくたびれてきた頃、いつしか風紀委員の拠点としている応接室に戻ることになる。 「なんだ?結局ふりだしに戻ったのか」 「キュウ!」 ロールが何かを見つけて鳴き声をあげる。 草壁が窓際に置かれた雲雀専用の机に近付くと、先ほどは気づかなかった手紙が置かれていた。 「うしろのしょうめん、だあれ」 頭文字の上にはやはり鳥の足跡。 そして今度は次の場所への指定がない。文面から読み取ると…今、後ろに、犯人がいるのか。 草壁はゆっくり振り替えった。 「誰だ…っ!」 「ロール、クサカベ」 声の主には聞き覚えがある。愛らしい呼び掛けに、草壁もロールも扉近くに佇む黄色い彼を凝視した。 「ヒバードっ!どこに居たんだ、心配したんだぞ」 「オツカレサマ、ヒバード、ハンニン」 「クピ?」 「ロール、ハンニン、ミツケタ。スゴイ」 「…この手紙、ヒバードの仕業だったのか?」 「ソウ」 ヒバードの返事を聞いて、草壁はその場に崩れ落ちた。 もしかして誘拐されたんじゃないかと本気で心配していたのに。 「クピピー♪」 「ロール、オメデト!」 ロールは理解していないのか、ヒバードに駆け寄り前足を上げて彼に抱き着いた。スリスリと身を寄せ会う2匹はこの世のものとは思えないほど可愛いが、学校じゅうを歩かされた身にもなってほしいと草壁は長いため息をつく。 「ヒバード、なんのためにこんな遊びを始めたんだ!」 バン! 草壁が今まで集めた手紙を客用テーブルへ叩きつけるように広げた。 1つめの手紙から順にならんだそれを見たとき、草壁はようやくヒバードの真意を知る。 「ヒバード…もしかしてこのために?」 「ロール、タンジョビ!」 「キューウ?」 「ミンナデ、オイワイ、スル」 ロール自身はいまいち理解していないのだろう。不思議そうにヒバードと草壁を交互に見て、それから並べられた手紙の上を端から歩いていく。 それぞれの手紙の頭文字。 ヒバードの足跡がある文字だけを繋げて読めば、彼の心からのメッセージが現れた。 ――おたんじょうび おめでとう 並中のみんなから集めたメッセージ。ロールの代わりに、草壁はこめかみが熱くなるのを感じていた。 * ■おまけ。荒らされた秘密 ディーノがエンツィオやスクーデリアを連れてやってきて、もちろん雲雀もいっしょに「ロール誕生日会」を開き、ひとしきり盛り上がった後のこと。 部屋を片付けながら、草壁はずっと疑問だったことをこっそりヒバードに尋ねた。 「なぁヒバード。そういえばなんでロールの寝床を荒らしたんだ」 「チガウ、オシャレニ、カザッタ」 「…そうか」 アレはヒバードなりの愛情表現だとわかり、それ以上に言葉が出ない草壁だった。 |