2 プレゼントを考えよう!


「なんの用だい」
「にょ!」

いきなり背後から声を掛けられた瓜は飛び上がって驚いた。

それぞれ担当の主に欲しいものを聞こうとアニマルたちが三々五々に散らばった後、瓜は応接室へとやってきたのだが、入りづらくてドアの前をうろうろしていた所、背後から気配もなく雲雀は現れた。やはりちょっと苦手だ。
(…ヒバードとロールは、怖くないって言ってたにょ。でもコイツ、目付き悪くてなんかイヤにゃ)
人のことを言えない瓜だけれど、ここはロールのために一肌脱がねばなるまい。

「雲雀は、欲しいもの何にゃ!」
「…なんのこと?」
「人間じゃないヤツから、プレゼントもらうならなにがいいにゃ!」

瓜が勇気を振り絞って聞いてみると、雲雀は手を口許にあてて真剣に考え始めた。

「そうだね。椿の花がいい」
「ツバキ?ツバキって何にゃ」
「学校の中庭に咲いてる、赤い花のことだよ。あれを押し花にして栞をつくりたいんだ」

なんだそんなものが欲しいのか。人間とはよく分からない生き物だが、あっさり雲雀の欲しいものを聞けてしまった。
もっと苦戦するかと身構えていた瓜は、ちょっと拍子抜けだ。でもこれで役目は立派に果たした。

「わかったにゃ!雲雀、きっとクリスマスにいいことあるにゃー」

意外と素直な雲雀に、瓜はご機嫌になった。
ヒバードたちがいうように、案外イイやつかもしれない。
任務完了とばかりに、にこにこ顔の瓜はトテテーとその場から走り去った。
それをみた雲雀は漆黒の瞳を細めてクスリと笑い、独り言を呟きながら部屋の扉を開く。

「それくらいなら、ロールやヒバードでも手に入れやすいしだろうしね」

*

獄寺を見つけたナッツは、一目散に彼へと駆け寄った。
よく非常階段で隠れてタバコを拭かしていることを、ナッツは知っている。そしてツナに見つかると叱られるのは彼の日常パターンだったから。

「ねーねー、隼人っ!いま欲しいものってある?」
「あれ。どうしたナッツ。10代目探してんのか」
「ううん。今日は隼人に用があって来たんだよ」
「10代目は今、補習の最中だからまだ戻られねぇぞ。暫く俺と待つか」

…全然伝わってないや。なんでだろ。
それもそのはず、人間にはナッツの声が「がぅがぅ」と可愛らしく鳴いてるようにしか聞こえないのだから、当然のことだといえる。

獄寺はまだ長く残っていたタバコを携帯灰皿に押し込めて、ナッツを抱えた。
少し乱暴だけど、ナッツがいるとこうして気遣ってくれる。そんな優しい少年のことをナッツは密かに気に入っていた。

「あのね、ナッツね、隼人の欲しいものを聞きに来たんだよ」
「瓜と違って大人しいよなぁ。さすが10代目の匣アニマルだな」

だめだ。言葉が通じない。
かっくり項垂れるナッツの頭に指が触れる。
どこかぎこちなくて、だけど一生懸命さが伝わるような撫で方。ツナはもっと上手だ。けれどどちらも心地いい。
そのうちウトウトし始めて、ナッツは獄寺の膝の上で眠りに落ちた。


*


「だからぁ〜!なんで分かってくれないの!?」

ロールが泣き叫ぶ声に驚いて、ナッツは目を覚ました。

「違うのー!ボクはツナが欲しいものを聞きに来たんだよっ」
「よしよし。もう鳴かなくても大丈夫だからね。獄寺くん、俺、雲雀さんのところにこの子を届けてくるよ」
「ご一緒します10代目」

いつしか場所を移動していた。ナッツが眠っている間にツナは補習とやらを終えたらしい。
獄寺の腕の中で目を擦ったナッツが正面を見ると、ツナの腕の中にロールがいる。

「ふわぁ…。あれ、ロールどうしたの?」
「ナッツ!ツナがね、全然ボクの言ってること分かってくれないの!」
「隼人もなんだよ。こまったなぁ…」
「雲雀さんなら分かってくれるんだけど」

ツナたちはこれから応接室へ行くらしい。ロールとナッツは溜め息をついた。どうやって彼らの欲しいものを調べればいいんだろう。
がうがう、クピピと何かを訴える二匹の言わんとすることが分からないツナと獄寺は、顔を見合わせながら雲雀のいる応接室へ向かう。

「今日はやけに機嫌悪いなぁ。どうしちゃったんだろうね」
「俺、動物に好かれねぇみたいだし、それでかもしれないです」
「ナッツのやつ、あれだけぐっすり眠ってたもん。そんなことないよ。ナッツも獄寺くんのこと大好きだし」

ね?とツナに問われて、ナッツは元気よく返事をした。

「好きだよ!あとね、ツナもロールも大好きなんだ」
「ロールもナッツ大好き!それでね、一番は雲雀さんなの」
「あはは、ナッツたちなんか喋ってるみたいだ。種類が違っても言葉が通じるのかな?獄寺くんはどう思…。どうかした?」
「えっ、あ!いや、なんでもありませんっ」

ナッツと瓜が獄寺を見上げると、彼は耳まで真っ赤になっている。
どうしたことだろう。

「君たち、なに群れてるの」
「うわあぁ!ひ、ヒバリさん…っ。あの、この子が迷子になっていたので連れてきただけなんですっ」
「ロールが?」

突然応接室の扉が開き、中から現れた雲雀にツナは飛び上がって驚いた。
外からアニマルや人の声が聞こえたから出ただけなのに、ツナは相変わらず雲雀に苦手意識が強いらしい。
ロールはツナの腕の中でキューと鳴いた。

「雲雀さん!あのね、ロールは迷子じゃないよ。ツナに聞きたいことがあるのに聞いてくれないの」
「草食動物に?」
「クリスマスに何が欲しいか聞いて―…」
「だめだよロール!みんなには秘密なんだからっ」

ナッツの言葉に、ロールはハッとして口を閉ざした。
そうだ、ここでバレてしまっては楽しみが減ってしまう。
ナッツとロールは恐る恐る雲雀を見上げた。秘密の計画はバレてしまっただろうか。
雲雀はいつものように涼やかな瞳を向けていた。何も言わないところを見ると、わかっていないようだと二匹は胸を撫で下ろす。

「とにかく、ロールは預かるよ。僕の目の前で群れてると次は咬み殺すからね」
「ひっ!すすすいません!」
「なんだと雲雀!10代目に向かってなんてクチ叩く――」
「獄寺くん!いいから行こうっ」
「待ちなよ」

その場から去ろうとして雲雀に呼び止められたツナは、なにか逆鱗に触れてしまったかと青ざめた顔で足を止めた。

「…なんでしょうか」
「クリスマスに、小動物をサンタクロースにしてプレゼントを配るとしたら、君なら何が欲しい」
「――は?」
「早く答えなよ」

雲雀の意表をつく質問に目が点になりつつ、ツナは少し考えて、「…どんぐりとか?」と答えた。

「あんまり重いものを持たせるのはかわいそうだし、動物でお土産っていうとあのアニメを思い出すってゆーか。あれは動物じゃありませんけど」

どんぐり!
ロールの瞳がきらりと輝く。ツナはどんぐりがいいのか、と頭のメモ帳に書き記した。
次に雲雀は視線を獄寺へスライドさせる。

「ふぅん、君は?」
「俺もかよ。つか、別にいらねぇし」
「獄寺くんは瓜を撫でさせてもらえる権とかいいんじゃない?普段なかなかできないしさ」
「10代目!俺は別に…っ」
「あはは、だっていっつも撫でたそうな顔してるよー」

そんなことありません!
慌てる獄寺を揶揄するツナはどこか楽しげだ。
ナッツはこれだと思った。瓜にいい報告ができそうだ。

「で、雲雀さん。それが何か」
「別に。特に参考にならなかったからいいよ」
「――お役にたてずスイマセン」

静かに扉がしまる。
やっぱり雲雀さんは謎だな、とツナは呟きながら応接室を後にした。





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