鳥と猫の死闘


猫は生き永らえるために狩猟本能がある。

獲物を捕らえるために発達した牙と爪。そして素早く動くためのしなやかな体と身体能力。足音で獲物に自分の存在を悟られないためのぷにぷにした肉球。
全ては狩りをするための武器だ。
止まっては不規則に蠢くそれに襲いかかるのは、生まれ持った本能に抗えないからに他ならない。

嵐猫の瓜がそう考えているのか定かではないが、今日も宿敵を前にして闘争本能が小さな身の内から溢れだしていた。
体勢を低くし、気配を消して、そおっと目標物に近寄る。

――今だ!
相手がのんびり歌っている一瞬の隙をついて、瓜はそれにくらいついた。

「にょおおおおぁ!」
「ピヨ」

黄色い物体は瓜の腕をするりとすり抜けて空を優雅に舞う。
空を飛べない瓜は、「降りてこい!」とでも言うように何度も何度も雄叫びを上げた。

「ミドリタナビクナミモリノー♪」
「にょーー!にょおんにょおん!」

悔しい、またあの鳥を捕まえられなかった!
今日こそエサにしてやろうと思ったのに!!

「こんなとこにいやがったのか、瓜!テメーなに騒いでんだよ。そろそろ炎が切れるころだろ」

突然背後から自分を呼び止める声がして振り替える。
…そうなのだ。
瓜は極限におなかを空かせていた。
だから今日こそあの黄色い鳥を食ってやろうと思っていたのに。
瓜は仕方がないとそちらを諦め、瓜の手下である獄寺隼人という少年の足元に擦りよった。

「にょおん…」
「なんだよ、ずいぶん殊勝じゃねえか。いつもこうなら可愛いのにな」

この獄寺隼人という少年は、単純でアホだ。
ちょっとこちらが下手に出ればあっさり言うことを聞くのだから、あの黄色い鳥に比べるとなんてチョロいんだろう。
拍子抜けするほど遣り甲斐がなさすぎて、闘争意欲も湧かない。
獄寺が差し出したリングから赤く小さな炎が揺らめいた。
それを舌先でペロペロ舐める。味はまぁまぁだ。

――でもきっと、あの黄色い鳥のほうがもっとうまいはず。

いつかは自分の食卓に並べてやろうとつり上がった瞳をさらに光らせて、満腹になった瓜は手下の獄寺に噛み付き駆け出した。

「それがエサやった飼い主への態度かテメーー!」
「にょー!」

追いかけっこは嫌いじゃない。仕方ないから獄寺と少し遊んでやってもいいと瓜は思った。

* * *

「ウリ、ワンパターン。アホ」
「ふぅん。まぁ飼い主に似たんじゃないの。興味ないな」

屋上から1階を見下ろす一人と一匹がいたことに、瓜と獄寺は気づかずにいた。


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