1はじまり


ここは、人里離れたとある動物病院。
ひっそり佇むようにして構えられた大きな屋敷は、正面に3つの扉があり忙しなく多くのものが出入りしている。大きな扉。小さな扉。目に見えないくらい小さな扉。
白のナース服や白衣に身を包んだ多くの看護師や医師が走り回る姿は一見普通の病院と変わりがない。ただひとつ違うのは、患者は全て人間だが医師や看護師は全てアニマルということである。

「ヒバード、申し送りはすんだかい?」

ナースステーションに顔を出したのは、唯一の人間でありこの並盛動物病院の院長を務める沢田綱吉。普段はドジばかりで気弱な青年だが、ひとたび青の炎を纏えば、誰もが羨む黄金の手を持ったハイパー医師へと早代わりするこの病院の名物と化していた。名物といえば綱吉の兄貴分でもあり、並盛動物病院の株主でもあるディーノ。美しいハニーブロンドに甘いマスクは女性の患者だけでなく従業員をまで虜にする美貌だった。…が、綱吉同様、執事であるロマーリオがいない場所では注射器を落とす、カルテを間違えるなどどじっこぶりを発揮していた。そんなダメダメなオーナー二人をまとめているのが、アニマルを執り仕切る黄色い小鳥のヒバードである。
本日も新たに入った患者を担当し、綱吉の言葉に小さく頷いた。

「ハッパ、ハッパ」
「ニョオオオン!」
「ウリ、ハッパ!」

ヒバードに命じられ、患者の葉っぱは瓜が探すことになった。患者の名前は草壁哲矢。命と同じくらい大事な葉っぱがなくなってしまったらしい。

「クピ」
「ロール、ダメ」
「キュウウ」
「ダメ、ハリ、ハリ」
「クピ…」
「…ヒバード、ロールは何ていってるんだい?」

隣で聞いていた綱吉だが、さすがに言葉までは分からない。針治療担当のロールが泣いているのは分かるがいつもはおとなしくヒバードの言うことには逆らわないはりねずみにしては珍しい事だと首を傾げるばかりだ。

「ロール、ヒバリスキ」
「ああ、先週入院したヒバリさんだね」
「ハリチリョウ、イラナイ」
「…そうだね。ヒバリさんは肺炎だから。でもロールは本当にヒバリさんが好きだよね」
「クピ!」
「ロール、ロマ、ロマ」
「キュウ…」

ヒバードに冷静に諭され、ロールはがっくりしながら項垂れた。どうやら雲雀に会えないのが寂しいらしい。

「ワンッ!」「ジロー、アソブ」
「ワン♪」

秋田犬の次郎は、怪我で入院している山本武のリハビリ相手、ツバメの小次郎は交通事故で運び込まれた獄寺隼人のセラピースワローを担当することになった。

一折り申し送りがすんだところで、綱吉があれ、と辺りを見渡す。そういえば最近看護師になったばかりのライオンの姿が見えない。

「ところでナッツは?」
「キュ!」

ナッツと同期のロールも辺りをきょろきょろ見回した。

「ナッツ、オナカ」
「は?」
「ガリュー、オナカ」
「我流の?ナッツのやつ、また逃げたのか」

ナッツは元々気弱で、臆病なライオンの幼子だ。人を怖がり仕事で失敗をすると決まって我流のお腹に逃げ込む。ヒバードのいう事だけは聞くようだが昨日みたいに大失敗をした翌日はそうもいかず、一人でぶるぶる震えていることが多かった。

「ヒバード、悪いけどまた連れてきてくれる?今日はヴァリアーも全員入院してくるって言うしナッツがいないと手が回らないだろ?」
「ヒバード、イク、イク!」

綱吉に命じられ、ヒバードは小さな窓から飛び立っていってしまった。どうやらナッツと我流がどこにいるか分かっているらしい。

「クピ」
「ん?ロール、どうしたんだ?」
「キュ!」
「…?」
「クピイ」

必死に何かを訴えているようだが、言葉のわからない綱吉は首を傾げるばかりだった。
さすがにヒバードがいないと、コミュニケーションさえ取れない。同じように瓜や次郎からもワン、とかにょーん、とかせがまれて泣きそうになった。

そんな並盛動物病院。
今日も病棟ではアニマルたちが元気よく走り回りながら、仕事をしていた。

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